10話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ロッタは柵に両腕を置き、上の空で湖を眺めていた。アグラ湖は噂に違わず、おとぎ話の世界を切り取ったように美しかった。日差しを浴びてキラキラと水面をきらめかせ、時折涼しい風を運んでくる。身体を動かすのも億劫で、ふわふわとした意識に身をゆだねながら、両腕に右の頬をつける。すると後ろから複数の声が聞こえて、だんだん彼女に近付いてきた。
「ちょうどいいくらいの距離の木を見つけるのがコツなんだよ」
「おまえはどこからそんな遊びを思いつくんだ?」
「遊びっていうか、簡単なベッドというか……。ユアン兄様ぐっすりだったし」
「昨日遅くまで起きてたからだろ。俺も付き合わされた。星がよく見えるってな」
感情豊かな少女の声と、少しぶっきらぼうな青年の声。朝から湖の近くに行くと言って出ていったが、昼を過ぎてようやく帰ってきたようだ。会話を聞く限りではルーナ製『ハンモック』の犠牲者が今日も出たらしい。ルーナの柔軟な発想に周りはいつも驚かされている。
「先ほどから微動だにしていませんが、飽きませんか?」
ふと横に気配を感じ、ロッタは顔を上げて右隣を見る。パッと目に飛び込むのは金茶色のウェーブがかかった髪。両手にグラスを持ちながら、カインは優雅に腰かける。
「みなさん、わたしを見るとこうして話しかけて下さるので、飽きません」
思考が半分停止した状態で、彼女はゆっくり身を起こした。腕を柵から引いて姿勢を正す。
彼はエアデルトの王子だと認められた後も、多くの人に以前の関係のままでいることを望んだ。それはロッタに対しても例外ではない。そのため身分上はその必要がないにもかかわらず、彼はリヒトルーチェ公爵家にいたときと同じ態度で彼女に接する。その意図をくみ取ってロッタも、堅苦しい作法などとはかけ離れた態度を取っていた。
「あなたが兄の婚約者だと知った時から、ゆっくり話をしてみたいと思っていたんです。クレセニアにいたときには、興味があっても話題に出せなかったから」
カインは左手に持ったグラスをロッタに差し出す。甘酸っぱい香りが鼻をかすめる。手持ち無沙汰では落ちつかず、話しかける口実に持ってきたようだった。
「王太子殿下とはわたしが4つの頃に婚約しました。長年お顔も拝見することなく、初めてお会いしたときに解消になりました。ですから、特にこれといって話すことはないんです」
「それについては、こちらの不手際の致すところですから」
「いえ……」
――以前の関係を望んだとはいえ、ロッタとカインは以前からそう仲が良かった訳ではない。ルーナを通して交流することが多かった二人が、二人きりのときにぎこちなくなるのは必然だった。ロッタはグラスを傾けながら良さそうな話題を探す。
「そういえば知っていますか、王太子殿下とは今でも手紙のやりとりをしています」
弟なのだからどこかで聞いたことがあるかもしれないと思いつつ、ロッタはさりげなくカインを見る。
「そうなんですか?」
「初耳でしたか?」
「ええ。もしや、レングランドの話を?」
「ときどきは。どうして?」
質問に次ぐ質問に、ロッタとカインは一旦言葉を切る。二人はしばらくの沈黙ののち、フッと息を吐きだした。
「じゃあ僕から。レングランドの留学を打診したときに、一番親身に協力してくれたのが兄上でして。どうしてか、僕よりもレングランドの内部事情に詳しかったので不思議だったんだ」
「……それは、確実にわたしのせいですね。レングランドの研究室の雰囲気とか、施設の充実さとか、色々書き連ねていましたから」
「やはり」