6話
夢小説設定
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リヒトルーチェ公爵邸のテラスからは、初夏の新緑が鮮やかに目に入る。ミリエルが丹精込めて育てたバラが見ごろを迎え、緑を下地として色とりどりに咲き乱れていた。アマリーの婚約式の際、魔物が侵入したことで一時は荒らされた庭園も、今ではすっかり元の美しさを取り戻している。
テラスに設置されたティーテーブルをルーナとロッタが囲む。絵になる令嬢たちの優雅なティータイムに、使用人たちは時折そちらを見て思わずため息をつく。しかしその会話の内容は、見かけによらないものだった。
「ねえ、ロッタは気になる人っているの?」
ルーナのド直球な質問にもロッタは動じなかった。逆に、質問を質問で返す。
「それ、リヒトルーチェで流行っているの?」
「どうして?」
「先ほどミリエル夫人にも同じことを聞かれたわ」
屋敷に到着してからルーナの支度を待つあいだ、ロッタはしばらくミリエルと話していた。その際にも同じようなことを聞かれたのだ。アマリーはすでに結婚し、ルーナは年齢的に時期尚早であるため、よく屋敷を訪れる令嬢の恋愛話に興味を持ったのだろうか。
挨拶回りのときにもそういった話題になることはあったが、ミリエルのそれは根本的に違う気がした。
「母様が……、うう、余計なことを」
「わたしは何も気にしていないわ。純粋な興味でお尋ねになったみたい。夫人は本当にお綺麗な方よね」
彼女の言う『綺麗』が外見のことだけではないことは明らかだった。ロッタはミリエルと話すたび、憧れのような、懐かしさのような柔らかな感情を抱いた。彼女の求める母親像がミリエルのような人物だからかもしれないし、実際にどこか似ているところがあるからかもしれない。自分の母親を褒められたルーナもまんざらではなかったが、当初の目的を思い出し話題を変える。
「それで、何て言ったの?」
「もちろん、そんなは人いませんって答えたわ」
「そ、そっか」
そこまではっきり言われると、ルーナたちがミモザたちと手を組んで、裏から色々画策しているのがむなしく思えてくる。新年を迎えてから約半年が経ったが、ルーナたちの計画はいつも上手くいかなかった。
(だけど、ロッタが特別鈍感なわけじゃないと思うんだよね。そりゃあ平均よりはだいぶん鈍感だけど。でも、それが原因じゃない気がする)
ルーナは、通りかかった使用人に軽く会釈するロッタをこっそり観察した。ロッタは確かにルーナたちの言葉を受け流したり、少しのアピールでは動じなかったりするところがあった。しかし、ジーンが多少強引に距離を詰めようとするとしっかり意識しているし、何なら赤くなったり視線をさまよわせたり、効果てきめんなのである。
それなのに本人に聞くと、ごまかしでも照れ隠しでもなく『気になる人はいない』となるのはなぜなのか。
ルーナは不思議でたまらなかったが、頭の良い兄はその原因にも思い当たっているようだ。特に気にした様子もなく、「今はそれでいい」と事あるごとに口にしている。ルーナと何でも共有し、全幅の信頼を寄せていたアマリーのときとは勝手が違った。
(うぅ、キューピッド失格だよ。というより、ジーン兄様が何を考えてるのか読めないーー!)
二人が上手くいけば何でもいいのだが、それでもやはり気になるものは気になる。
そんな彼女の葛藤を知る由もないロッタは、先ほどのミリエルとの会話の続きを思い出していた。
(「あら、そうなの? まだだったのね。ゆっくり進展する関係も素敵だものね」っていう、謎の言葉をいただいたけど、娘には理解できるのかしら……?)
真意を探ろうとしたが、ふふふ、と笑ってごまかされた。