1話
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忘れてもいいと、声がする。
寒い場所だった。私は薄着で雪の舞う道を進む。支給された靴に雪が染み込んで、しもやけになった足もすっかり感覚を失った。
彼は、結局、私に何を望んでいたのだろう。若奥様の頼みを聞いて私と結婚して、たんまりとお金をもらって、そのお金で女と遊び酒を飲んで、帰ってくれば私を殴りつけた。若奥様からいただいたお金がなくなれば私が稼いできたお金で同じことを繰り返す。彼は馬鹿みたいに何度も繰り返した。
こんなとき、私は何もしないことこそが最大の防衛手段だと知っていた。何も感じない。何もつらいことなどない。我慢、我慢、我慢。そうして我慢を続けていると、彼は他に女を作って出て行った。私を奴隷市場に売ったお金で、同じことを繰り返していた。
大丈夫。次の屋敷は成金の家。つらいけれど暴力は元夫の比ではない。今日も金貨を持ってお使いに行く。
これを持って逃げたら、数カ月は遊んで暮らせるのだろうか。
そんな
淡々と、私を眺める『私』がいる。かつては私だったはずなのに、『私』はすっかり他人事で私の惨状を眺めていた。『私』は新しい人生を生きて、私の頃の記憶をなくしていく。同じ人間だと思っていた私は、『私』にとってすっかり別の人間のように感じられる。だけど、『私』は、失いたくなかった。
あの父親でも満足だということを、あの兄たちがどれほど幸せをくれているかということを、今の生活がかつての私には考えられないほど恵まれているということを、分かっているために。
―――『襲いかかる不幸に流されただけだ』
まるで私の人生を一から見てきたかのように、天使様は断言した。
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