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いたずら好きのポケモンたちが勝手に点けてしまったテレビで流れていたのは、昔のドラマの再放送だった。そういったものには疎いぼくでも覚えているほど当時流行っていた役者を、これまた当時流行っていたようなシチュエーションにとりあえず詰め込んだだけの、欠伸が出そうなほど平坦なラブストーリーだ。
電源を消しても消しても気づくと誰かがまたテレビのスイッチを入れているので(まったく、みんなおもしろがっているのだ、)結局、なんとなしに最後まで眺めてしまった。登場人物たちの名前も素性も関係も薄ぼんやりとしか覚えられないままだったが、どこかのシーンで誰かが口にした台詞だけは、妙に印象に残った。

『誰にでもやさしいって、ほんとはちょっと残酷なことなのかも』

読んでいた本から顔を上げて、しばらくぽかんとしていたミナキくんだったけど、ぼくから「ちょっと前に見たドラマの話」と告げられると、「ああ」と短く返事をした。座卓に置かれた彼の湯飲みからは湯気が立たなくなっていたので、淹れ直そうかと問うと、いいやと軽く首を振られた。
もうブームは去ったのか、最近ゴースたちはテレビには目もくれない。次に目を付ける遊び道具は、できれば家電ではないといいのだけれど。居間から台所に抜ける廊下をふわふわと漂う黒いかたまりを目で追っていると、不意にミナキくんが口を開いた。

「……どういう話かはよくわからないが」

ぱらり。乾いた紙を捲る音が、静かな家の中ではいやに大きく響く。

「べつに、残酷なんかじゃないだろう。誰にもやさしくないような人間より、ずっとずっと良いじゃないか」

…………ああ、と。薄く開いた口から溜息が漏れる。確かに残酷である。目の前の彼が時折見せる、いっそ眩しいまでの正しさは。もし彼がその「誰にもやさしくない人間」であってくれたなら、初めからすべてを諦めることができた。期待など、しなくてよかったのに。
しかし彼のまっすぐな翠色の目は、今この瞬間も古ぼけた本の小難しい文章を追うことに夢中だ。こちらに視線が注がれていないことで命拾いをしたと、ぼくは心の底から安堵した。だから、ひとつ息をついて、口の端を持ち上げて、軽く目を細めれば、ほら、いつも通り。

「それもそうだね。あのドラマ、あんまり面白くなかったから、どういう流れでの台詞なのかは忘れちゃったんだけど。きっと君の言うとおりだ」
「……、今日の君はすこし変じゃないか」
「そんなことないさ」

それより少し休憩にしたらどう。ぼくが戸棚から取り出した羊羹の包みを見せると、ミナキくんは解けるように破顔する。
いつまでも続くぬるま湯のようにおだやかな、満ち足りた空気の中で、ぼくは誰よりも、ひとりだった。

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