BARステラアビス

 
 
「本当に、私と同じように、ひとつ歳を取ってくれるのですよね?」

なんて、口に出したら思った以上に切羽詰まった声色になってしまいそうだったので、やめた。ベッドの中で触れ合わせた手はあたたかくて、目を閉じて薄い胸に耳を当てれば規則正しい確かな鼓動が息づいている。それでも11時59分59秒までの彼と12時ちょうどの彼の何かがほんの少しでも変わっていると証明してくれるものは、いくら探してもこの部屋のどこにもない。ただ擦り寄せたように見える頭をくしゃくしゃと撫でられる音だけが確かだった。甘えていると思われてしまったのだろうか。いや、確かめるふりをして、実は甘えているのかも。情けない大人だ。そんなことを思う。

「ほんとに日付が変わるまで起きてるつもり?」
「⋯⋯最初におめでとうを言いたいので」
「そんなに心配しなくても、誰かに先を越されたりしないと思うけどなあ」
「いえ、きっと日付が変わってすぐメッセージが来たりしますよ。あなたを大切にしてくれる良い友人が、周りにたくさんいるでしょう⋯⋯から⋯⋯」

言い終えると同時に、ふあ、と小さく漏れた欠伸を隠し切ることはどうやらできていなかったようで、サマヨイは「あ」と呟いて眉根を寄せた。一緒にグラスを傾けている時にたまに見る、会話の中で、僅かな違和感を見つけた時の表情。

「ね、無理しなくていいよ、カジさん明日もお仕事でしょう。もう寝てしまおうよ、私も一緒に寝るからさ」

それで、朝になってまだ寝てる私に声をかけてくれたら、カジさんが一番乗り。優勝。そう耳元で囁かれるひどく魅力的な提案とともに背中をとんとんと撫でられて、観念したカジの瞼はとろとろと落ちていく。薄れていく意識の中で、サマヨイさん、と呼びかけたつもりでいるけれど、もしかしたらそれは声になっていなくて、口がことばの形をなぞっているだけだったかもしれない。それでも彼は「どうしたの」と言った。涙が出そうだった。

「そばに、います、だから、そばにいてください」

この夜が明けるまでのことなのか、それともまだずっとずっと先、どちらかがいなくなるまでのことなのか。自分でも分からないままに絞り出した淡い懇願に彼がただゆっくりと頷いてくれることを、愛と呼んでも、許されるだろうか。

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