BARステラアビス



「サマヨイさんは、クリスマスはどんな風に過ごされていたんですか?」
「え、と」

子供の頃のクリスマスには家族で集まって、チキンとケーキを食べて、翌朝目を覚ますと、枕元にはお願いしていたプレゼント。きっとありきたりではあるけれど、それでも目の前でグラスを傾ける彼が手にすることのできなかった思い出を、たとえば「ふつうだよ」とかそんな一言で片付けてしまうことは、サマヨイにはどうしてもできなかった。辺りを見回せば世の中に溢れかえっているはずのものを必死で求めて、指の隙間から溢しながら生きてきた人間はどこにだっている。うーん、と悩んで見せるふりをしながら、サマヨイは自らのグラスに口をつけた。一口目には少し甘すぎるかな、と感じたチョコレートと生クリームの香りをフレッシュハーブの爽やかな風味がバランスよく抑えて、口当たりはまろやかで好みの味わいだ。カウンターで説明を受けたはずなのに、ほろ酔いの頭からすっぽりと抜け落ちてしまったこの黄金色のカクテルの名前を、もう一度マスターに聞いてから帰ろうと、そんなことを思う。

「……家を出てからはクリスマスもずっとバイトだったし、そんなに面白いこともなかったなぁ。つまんないよね、ごめん」
「まあ、社会に出てしまうと案外そんなものですよね。私も同じく、です」

気を遣われた、というのを察したのか、カジは苦笑いを浮かべてグラスを置いた。空になったグラスの中で、きれいな丸氷がからりと鳴る。

「あのさ、うまく言えないんだけど」
「はい?」
「……したいことをして、しなくていいことはしないで、お互いにあんまり考えすぎないでさ、楽にするのがいちばんだと思うよ」
「そうですね」
「……でもチキンは食べたいかも、考えといてくれる?」
「……ふふ、もちろんです」

ただあなたが笑っている顔を見ていたい、なんて無邪気に言えるほど子供のままではいられないけれど。誰にも傷つけられることのない場所で、少しずつやわらかな丸みを帯びて、やがてふたりだけの「ふつう」のかたちになりたい。そんなことを夢見るくらいは、許されるだろうか。


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