BARステラアビス

 
「最近の私って、もしかしてちょっと子供っぽいですか?」

バーの落ち着いた照明の下でそう切り出せば、丸テーブルを挟んで向かい合うサマヨイはまさにぽかん、といった顔。しかしやがて周りを見回して声を落とした彼に、誰かに何か言われたのか、と逆に問われ、カジは慌てて首を振った。そんなに深刻そうな表情を浮かべてしまっていただろうか。最近どうにも、自分がどんな顔をしているかが分からない。

「あ、いえ、別にそういうわけでは……。なんとなくですけど、自分の感情に振り回されることが増えた気がするかな、なんて……」
「うーん」

サマヨイの丸い瞳がじっとこちらを見つめている。以前はその、相手の奥の奥まで覗き込んで、本当の言葉を引きずり出そうとするような視線が、少し恐ろしくもあったけれど。

「そうだとしても、子供っぽさに自覚があるって、逆にちゃんと大人なんじゃない?」
「……えっと…………はぁ」

グラスを口に運びながら彼がこぼしたひとことに、肩の力がふっと抜けた。心につかえていた重たいなにかがあっさりと溶けてなくなる感覚は、氷がじわりと小さくなって、からん、と音を立ててグラスの中を泳ぐのによく似ている。

「どうしたの? カジさん? おーい」
「なんというか、あなたって…………」

なんだかんだで、いちばん大人ですよね。思わず弛んだ口元を手で隠しながらカジがそう呟くと、「そんなことないよ」と、いとしいひとはどこか照れくさそうに笑っていた。

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