BARステラアビス
「今日は、レオナちゃんの大学の近くのカフェに連れていってもらった。内装がレトロで、どっちかというと喫茶店、って感じなのかも」
それでね、ちょっと固めのプリンを食べたんだ。夕食後のリビングのソファで、サマヨイが差し出したスマホに映る写真をカジはにこにこと眺めている。楽しかったですかとひとつ問われ、サマヨイが頷けば、彼もまた満足そうに笑った。
「……あのさ、意外と余裕?」
「え?」
「私、カジさんはもっとやきもち焼きだと思ってた。それとも我慢してるのかな」
仕事に行っている間、サマヨイが自分よりも年頃の近い女性(まあ、この人からしたら異性だろうと同性だろうと特別な差異はないのだろうけど)と二人きりの時間を過ごしているのだ。荒れていた頃のカジの姿を目の当たりにしてきたサマヨイには、彼がそれを受け入れているというのが未だに信じられない。するとサマヨイの言わんとすることを察したのだろうか、カジは口の端に困ったような苦笑いを浮かべた。
「まあ、以前の私だったら根掘り葉掘りしつこく聞いていたかもしれませんね」
もしかしたら、自由な外出そのものを許していなかったかも。そんな少しだけ恐いことを呟いて、
「でも、私がサマヨイさんだけの自由な時間を力ずくで奪うような真似をしたら、きっとあなたは、次第にあなたらしさを失くしてしまうでしょう。ちゃんと、わかっていますから」
それから、サマヨイのことを抱き締めた。自分のものとは違う、しかしすっかり馴染んだシャンプーの匂いがふわりと鼻を擽る。
「……しかし、全く妬かないのか……と言われるとそういうわけでもありませんので、せめて土日のどちらかは、私のためにとっておいてくれますか?」
「そんなに遠慮しなくても、両方あげるってば」
眉を頼りなく下げてしまったカジに、今度はサマヨイが苦笑いを返す番だ。何ならその先だっていくらでも、とまでは、流石にまだ言うことができないけれど。自分の触れない時間が、踏み込めない場所があるとお互いに受け止めて、それでも寄り添いたいと願えるのなら、きっと、ずっと一緒にいられるのかもしれない。サマヨイは彼の腕の中で、ただそんなことを思っている。