pkmn


「まだ持ってるんだね、これ」

これというのは、クリーム色の画用紙と透明なフィルムの間にエンジュの秋色の落ち葉を閉じ込めた、手作りの栞のことだった。ミナキが読み進めていた小説から顔を上げると、居間の座卓に置かれた栞をマツバが手に取り懐かしむように眺めていた。まだ幼い頃に工作図鑑を眺めながらふたりでせっせと作ったそれは、大人になったマツバの手のひらにすっぽりと収まってしまう。

「それはそうさ、大事な思い出だからな。……まさか君は処分してしまったのか?」
「あ、違うんだ。言い方が悪かったよ、いつも持ち歩いてるんだね、ってこと。邪魔してごめん」

慌てて首を振ったマツバが栞を返してきたので、本に挟んで机に置いた。移動時間を使って少しずつ読んでいたミステリー小説もいよいよ終盤、やっと明かされる犯人の正体が気にならないことはないが、それより大事なことは世の中にいくらでもあるのだ。例えば素直に「話がしたい」と言えない友人とか。

「冗談だよ、君はそんなに薄情じゃないよな。どこかに置いてるのか?」

聞けば、落ち葉の栞の片割れをはじめとして、お揃いのキーホルダー、ふたりで見た映画のパンフレットなんかを戸棚の奥にしまっているという。君がいつかおみやげにくれたきれいなクッキー缶に入れてね、と続ける彼は少し照れくさそうだった。なにかを大切にする方法は人それぞれだなと思う。

「君は強いな」

ふと、彼がそんなことを言う。

「こういう物を見ていると、ぼくは少しだけ、昔に戻りたくなってしまうから。思い出をどこまでも連れていける君は、強いよ」

マツバが視線を向ける先、年季の入った戸棚の中にはきっと幼い頃の思い出たちが眠っている。ああ、君はどんな気持ちの時にそれを取り出して、どんな表情をしながら、缶の蓋をそっと開けているんだろうか。

1/17ページ
スキ