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居間の隅っこで、ちいさなゴースたちが2匹、まるでころころと毛玉が転がるようにじゃれ合っているのを見ていた。逃げるゴースと追いかけるゴースがぶつかる度、彼らの纏う薄紫のガスが燻る煙のように混ざり合って、また片割れが逃げる度にすうと別れてを繰り返している。
「どこまでが自分なのか。境目が、わからなくなってしまわないのだろうか」
「……。ミナキくんってさ……」
普段は眠たそうな目を丸くしたマツバが、向かいに座るわたしをじっと見ていた。そうしてしばらく無言で見つめうことになったが、やがてマツバはふいと視線を外し、卓袱台に置かれた煎餅に手を伸ばしてぱりぱりと噛り始めた。ちなみにそれは今日の手土産だ。
「な、なんだ。言いたいことがあるなら言えばいい」
「ああ、いや、なんて言えばいいかなって……そうだね、君はぼくとは違う視点で色々考えているんだなって思ったよ」
マツバの湯呑みのすぐ横に置かれたふたつのボールは、あのゴースたちを収めているものだろう。どんなにもみくちゃになって遊んでいるときでも各々のボールにきちんと戻るのだから、彼らの個体としての境界に機械的な判別をつけることはできているのだという。そう前置きした上で、でもそういうことじゃない、とマツバは続けた。
「あの子たち、親は別々だけど、同じタイミングでタマゴから孵って以来ずっと一緒なんだ。だからお互いを、自分の一部だと思ってるかもしれない」
それがいいことか悪いことかは、まだわからないけどね。そう締め括って、お茶をひと口。仲がいいだけなら良いことだが、これが離れることを極端に嫌がったり怖がったりするようになるなら話は別だ、ということらしい。流石ジムリーダーともなると、先のことまでよく考えているものだとわたしは感心した。
元気に飛び跳ね回る方が勢い余って縁側の日向に突っ込みそうになると、それに比べるとゆったりとした動きに見えていた方が、驚くほどのスピードで止めに入る。そしてまた箪笥の日陰に転がり込んで、きゃっきゃとじゃれ合う。こうして少し観察しただけで性格も個性もまるで異なるというのがよくわかるが、いいコンビだ。マツバも同じことを思っているのか、様子を眺めながら目を細めている。
「……」
境目をなくす。自分の一部になって、自分が一部になる。なんとなく、わかるような気がする。ただそれを口に出すことでなにかが変わってしまいそうで、わたしはただ、彼の横顔を見ていることしかできないのだった。