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「君にはあるのか、宝物」
「ん?」

「あなたの宝物はなんですか」ーーーなんとなく点けていたテレビの中で、街行く子どもたちがインタビューを受けていた。好きな子からもらった折り紙、押し花、ぴかぴかの木の実、親から譲られたモンスターボール。とびきりの笑顔でたいせつなものをひとつひとつ挙げる様子を初めは微笑ましく眺めていたものの、次第に画面の向こうから届くあまりの眩しさに、自らが大人になるのと引き換えに失ってしまったいろいろなものを思い、なんだか居たたまれない気持ちになってきたところだった。
不意に水を向けられたマツバはというと、さっきからみかんの白い筋をちまちまと取るのに夢中で、垂れ流されている番組の内容をまるで気にかけていなかったらしい。緩慢な仕草でテレビの画面を一瞥し、ああ、と気の抜けた生返事をひとつ返して、

「あるよ。そこに」
「意外と無造作な感じで置いてあるんだな」

ほんのり黄色く染まった指で、居間の隅っこにある年季の入った茶棚を示した。こたつに入ったままではどちらからも手の届かない距離だったので、言い出しっぺのミナキが向かう。指示通りに一番下の引き出しから取り出したのは、真四角のかたちをした煎餅の缶だったので、正直言って少し拍子抜けだ。いかにもなオーラの漂う葛籠とか、開ける手順を間違えると呪われそうな小箱とかが出てくるよりはいいが。

「無造作な感じで置いてあっちゃまずいほうもあると言えばあるけど」
「怖いことを言うな。こっちでいい」

缶を抱えてこたつに戻ると、マツバはふわふわと飛んできた赤ちゃんムウマにみかんを与えていた。最近タマゴから孵ったばかりの彼女にとって、見るもの全てが新しくて珍しいのだ。口の中で弾ける甘酸っぱさに目を輝かせている。

「さて、開けてみてもいいだろうか」
「もちろん」

見覚えのある景色と筆跡を閉じ込めたポストカードが、銀色の蓋の下に詰まっていた。同じ差出人より、毎回違う場所から送られてくるそれを、受取人はひとつ残らずとってあるのだという。

「君って奴は本当に……」

信じられないほど熱くなってしまった顔をミナキがようやくの思いで上げれば、そこに待っていたのはテレビに映っていた子どもたちにも負けないくらいの無邪気な笑顔だったのだから、つられて笑ってしまう。ああ、まったく、君って奴は本当にかわいいな。

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