深緋の星
きっと、あの時に
「…馬鹿か、俺は。」
走り去った彼女を追いかけることが出来ず、ただその場に立ち尽くす。
中瀬さんに嫌な思いをさせてしまった。
MVPになれるほどバスケを頑張ってたんだから、やめたくてやめたわけがない。
きっと何か事情があるんだ。
ちょっと考えればわかるはずなのに、彼女の気持ちも知らず、無神経なことを言ってしまった。
思い返せば今朝、俺の事を知っていたって話になった時、彼女は途中で話を切り上げていた。
それだって、過去の事を話したくなかったから。
愛知MVPだって知ってくれていた事が嬉しかった。
しかも彼女もバスケをやっていて、MVPだったと知って。
共通点を見つけてもっと仲良くなれるかもと、つい舞い上がってしまった。
胸がズキズキと痛む。
けど、彼女の方がもっと嫌な気持ちになっているだろう。
「明日、中瀬さんとどんな顔して会えばいいんだよ…。」
***
次の日、登校して真っ先に中瀬さんの席へ向かう。
どうしたらいいのかわからないけど、とにかくまずは謝りたい。
その上で拒絶されたら…もうそれは仕方がない。
既に登校している彼女は、自分の席で本を読んでいる。
伏し目がちな目元で揺れる、長いまつ毛。
綺麗だ、なんて一瞬不埒な事を考えるが、彼女の視線を隠すそれが彼女と俺の間に出来た壁のようにも感じてしまう。
「…中瀬さん、おはよう。」
小さく深呼吸をし、意を決して声をかける。
声で俺だと気づいたのか、中瀬さんは肩をピクッと震わせ表情を硬くする。
「…おはよう。」
無視されるかと思ったけど、彼女は少し顔を上げて小さく挨拶を返してくれた。
それだけで、心の不安がほんの少し軽くなる。
「その…昨日はごめん。変な事言って。」
俺の言葉に彼女の表情が軟化する。
けど何故か、彼女は眉を下げて申し訳なさそうにしている。
そして、手に持った本を閉じ、机に置く。
「…諸星君は悪くないよ。私こそ、態度悪くてごめんなさい。」
そう言って彼女は小さく頭を下げる。
中瀬さんは謝るような事なんてない。
俺のために頭を下げないでほしい。
「中瀬さんが謝ることじゃ…俺が無神経な事言ったせいだし。」
「…でも」
「…」
お互い、自分が悪いと譲り合いそうにない。
「ほら、席つけー。」
どうしたものかと考えあぐねていたら、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。
どことなく気まずい雰囲気のまま、自分の席に着く。
どうして、こんなに中瀬さんの事ばかり考えてしまうのか。
親友と同じ中学だからとか、親友の従妹だからとか、俺がMVPだって知ってたのはどうしてかとか…誰とも関わろうとしないのは、何故なのかとか。
単に興味本位だと思ってた。
でも今、はっきり気づいた。
…俺、中瀬さんが好きなんだ。
きっと、あの時に一目惚れをしてしまった。
だから、彼女の事をもっとたくさん知りたい。
たとえ知る事が出来なくても、中瀬さんには笑っていて欲しい。
俺は嫌われても仕方がない。
けど、俺が好きなバスケは…中瀬さんが好きだったバスケは、嫌いにならないでほしい。
俺に出来る事なんてたかが知れてるし、きっとただの自己満足。
けど、どうせ嫌われるなら…何もせずいるより、俺に出来る事をして嫌われよう。
「…よし。」
ある決意を胸に灯し、グッと拳を握りしめた。
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