38度の冷たいキス
初めてのバレンタインからおよそ3週間。
久莉奈が風邪を引いて熱を出し、学校を休んだ。
付き合ってからは学校ではもちろん、休みの日も部活やデートで毎日顔を合わせているから何だか寂しいし、とても心配だ。
放課後、たまたま部活が休みだったこともあって、俺はお見舞いの為に久莉奈の家に行くことにした。
とは言え、弱ってる姿を見られたくないだろうし、お見舞いの品を預けてすぐ帰るつもりだった。
だけど久莉奈のお母さんに、半ば強引に部屋まで通されてしまった。
久莉奈のお母さんはテーブルに飲み物を置いた後、久莉奈の顔を覗き込む。
久莉奈はよく眠っていて、俺達がいても起きる気配はない。
この部屋に入るのは、初めてではない。
だけど、部屋の主の許可なく入るのは、なんだか気が引けてソワソワしてしまう。
「…久莉奈さんの様子はどうですか?」
「さっきより顔の赤み引いてるから、多少熱下がってるんじゃないかしら。」
「そうですか…良かった。」
「諸星君、私、買い物に出るから、久莉奈の側にいてあげてくれない?」
「えっ…わかりました。」
「起こしましょうか。諸星君の顔見たらすぐ元気になるわよ。」
「い、いえっ、起きるの待ちますから。」
「そう?起きそうになかったら、起こしちゃっていいわよ。」
「はあ…。」
「それじゃ、ごゆっくり。」
フフ、と楽しそうに笑いながら、久莉奈のお母さんは部屋を後にする。
…顔は久莉奈とそっくりなのに、性格はまるで違うんだよな…。
ベッドにそっと視線を向ける。
少し不規則な寝息ではあるけど、思ったよりも辛くはなさそうだ。
不謹慎と思いつつも、初めて見る久莉奈の寝顔にドキドキしてしまう。
何だかたまらなく愛おしくなって、俺は久莉奈の頬にそっと触れる。
「ん…」
小さく反応した久莉奈がゆっくりと目を開ける。
久莉奈は天井をぼんやり眺めていたが、やがてベッドの横にいる俺の方に顔を向けた。
「ごめん、起こしちゃったか。」
「……大君?………えっ、大君!?」
「あっ、久莉奈!」
驚きで一気に覚醒した久莉奈がガバっと起き上がるが、直後ふらついて倒れそうになる。
俺は咄嗟にその体を抱きかかえる。
久莉奈に触れるのは初めてのキスの時以来で、お互い身を硬直させしばし沈黙する。
「あ…ありがとう。」
「いや…驚かしてごめん。大丈夫か?」
「…クラクラする。」
「ゆっくり横になって。」
再び横になった久莉奈は赤い顔を隠すように一度顔まで布団を被り、目元だけを布団の外に覗かせる。
「大君、何でここに?部活は?」
「今日は体育館の設備点検だから休みだろ。だから、お見舞いに来たんだよ。」
「あ…そっか、そうだった。」
普段はしっかりしている久莉奈らしからぬ言葉。
それだけ弱っているってことか…。
「なんか、恥ずかしい…こんな姿見られるの。」
「そう思って会うつもりはなかったんだけど、久莉奈のお母さんに押し切られちまって…。」
「大君に会えば元気になる、とか言ってたんでしょ。」
「正解。」
「もう、お母さんたら…。」
そう言いつつも、久莉奈はどこか嬉しそうだ。
お母さんの言ったとおりだったな、なんてちょっと自惚れてしまう。
…顔見ずに帰らなくて良かったかも。
「あ、プリンとゼリーとヨーグルト買ってきたから。後で食べれたら食べて。」
「そんなにたくさん買ってきてくれたの?」
「どれも好きだろ。のど飴とスポドリも買ってきた。」
「ふふ、ありがと。」
久莉奈がのそのそと体を起こす。
「起き上がって大丈夫か?」
「うん、大丈夫。顔洗ってくる。そのカーディガン取ってくれる?」
俺は椅子に掛けられたカーディガンを渡す。
それを羽織った久莉奈は、少しおぼつかない足取りで部屋を出ていく。
暫く経って、マスクを着けた久莉奈がスポドリを手に戻ってきた。
「何でマスクしてんの?」
「大君にうつったら困るでしょ。」
「大丈夫だって。俺、風邪引かねぇもん。」
「だめ。」
さっきよりは足取りも口調もしっかりしている。
いつもの久莉奈だな、と少し安心する。
ベッドに座った久莉奈は持ってきたスポドリを一口。
「寝てなくて平気なのか?」
「うん。少し起きてる。」
「そっか。熱は?」
「今朝よりは下がってたよ。38度。」
「げ、まだそんなあるのか。」
「うん。熱出すなんて、小6の時以来かも。」
「俺、最後に熱出したのいつだろう。…幼稚園かなぁ。」
「すごい。そんな前なんだ。」
「小学校も中学も皆勤だったからな。」
いつもと違うだけで、いつもしている他愛のない会話が特別に感じられる。
そのせいか、意識しないようにしていた、特別な感情が沸き上がってしまった。
久莉奈が風邪を引いて熱を出し、学校を休んだ。
付き合ってからは学校ではもちろん、休みの日も部活やデートで毎日顔を合わせているから何だか寂しいし、とても心配だ。
放課後、たまたま部活が休みだったこともあって、俺はお見舞いの為に久莉奈の家に行くことにした。
とは言え、弱ってる姿を見られたくないだろうし、お見舞いの品を預けてすぐ帰るつもりだった。
だけど久莉奈のお母さんに、半ば強引に部屋まで通されてしまった。
久莉奈のお母さんはテーブルに飲み物を置いた後、久莉奈の顔を覗き込む。
久莉奈はよく眠っていて、俺達がいても起きる気配はない。
この部屋に入るのは、初めてではない。
だけど、部屋の主の許可なく入るのは、なんだか気が引けてソワソワしてしまう。
「…久莉奈さんの様子はどうですか?」
「さっきより顔の赤み引いてるから、多少熱下がってるんじゃないかしら。」
「そうですか…良かった。」
「諸星君、私、買い物に出るから、久莉奈の側にいてあげてくれない?」
「えっ…わかりました。」
「起こしましょうか。諸星君の顔見たらすぐ元気になるわよ。」
「い、いえっ、起きるの待ちますから。」
「そう?起きそうになかったら、起こしちゃっていいわよ。」
「はあ…。」
「それじゃ、ごゆっくり。」
フフ、と楽しそうに笑いながら、久莉奈のお母さんは部屋を後にする。
…顔は久莉奈とそっくりなのに、性格はまるで違うんだよな…。
ベッドにそっと視線を向ける。
少し不規則な寝息ではあるけど、思ったよりも辛くはなさそうだ。
不謹慎と思いつつも、初めて見る久莉奈の寝顔にドキドキしてしまう。
何だかたまらなく愛おしくなって、俺は久莉奈の頬にそっと触れる。
「ん…」
小さく反応した久莉奈がゆっくりと目を開ける。
久莉奈は天井をぼんやり眺めていたが、やがてベッドの横にいる俺の方に顔を向けた。
「ごめん、起こしちゃったか。」
「……大君?………えっ、大君!?」
「あっ、久莉奈!」
驚きで一気に覚醒した久莉奈がガバっと起き上がるが、直後ふらついて倒れそうになる。
俺は咄嗟にその体を抱きかかえる。
久莉奈に触れるのは初めてのキスの時以来で、お互い身を硬直させしばし沈黙する。
「あ…ありがとう。」
「いや…驚かしてごめん。大丈夫か?」
「…クラクラする。」
「ゆっくり横になって。」
再び横になった久莉奈は赤い顔を隠すように一度顔まで布団を被り、目元だけを布団の外に覗かせる。
「大君、何でここに?部活は?」
「今日は体育館の設備点検だから休みだろ。だから、お見舞いに来たんだよ。」
「あ…そっか、そうだった。」
普段はしっかりしている久莉奈らしからぬ言葉。
それだけ弱っているってことか…。
「なんか、恥ずかしい…こんな姿見られるの。」
「そう思って会うつもりはなかったんだけど、久莉奈のお母さんに押し切られちまって…。」
「大君に会えば元気になる、とか言ってたんでしょ。」
「正解。」
「もう、お母さんたら…。」
そう言いつつも、久莉奈はどこか嬉しそうだ。
お母さんの言ったとおりだったな、なんてちょっと自惚れてしまう。
…顔見ずに帰らなくて良かったかも。
「あ、プリンとゼリーとヨーグルト買ってきたから。後で食べれたら食べて。」
「そんなにたくさん買ってきてくれたの?」
「どれも好きだろ。のど飴とスポドリも買ってきた。」
「ふふ、ありがと。」
久莉奈がのそのそと体を起こす。
「起き上がって大丈夫か?」
「うん、大丈夫。顔洗ってくる。そのカーディガン取ってくれる?」
俺は椅子に掛けられたカーディガンを渡す。
それを羽織った久莉奈は、少しおぼつかない足取りで部屋を出ていく。
暫く経って、マスクを着けた久莉奈がスポドリを手に戻ってきた。
「何でマスクしてんの?」
「大君にうつったら困るでしょ。」
「大丈夫だって。俺、風邪引かねぇもん。」
「だめ。」
さっきよりは足取りも口調もしっかりしている。
いつもの久莉奈だな、と少し安心する。
ベッドに座った久莉奈は持ってきたスポドリを一口。
「寝てなくて平気なのか?」
「うん。少し起きてる。」
「そっか。熱は?」
「今朝よりは下がってたよ。38度。」
「げ、まだそんなあるのか。」
「うん。熱出すなんて、小6の時以来かも。」
「俺、最後に熱出したのいつだろう。…幼稚園かなぁ。」
「すごい。そんな前なんだ。」
「小学校も中学も皆勤だったからな。」
いつもと違うだけで、いつもしている他愛のない会話が特別に感じられる。
そのせいか、意識しないようにしていた、特別な感情が沸き上がってしまった。
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