Dependable

11月も終わりが近づく休日、部活も予定もない午後。
俺はダイニングテーブルでカフェオレを飲みながら、バスケの雑誌を読んでいる。

「何にも面白いのやってないわねー。」

なんて言って、ソファでコーヒーを飲みつつテレビのリモコンを操作しているのは、姉の朱里(あかり)だ。

俺には年の離れた姉がいる。
姉は数年前に結婚していて、旦那さんと4歳になる息子の悠希と3人で暮らしている。
家を出たとは言っても、同じ市内に住んでいるから悠希を連れてよくうちに顔を出している。
まぁ、両親が孫にデレデレで、しょっちゅう会いたがるからなんだけど。

今日も家に来ている姉と悠希。
甥っ子はちょっと生意気だけど、懐いてくれていて中々可愛い。
今日もひとしきり遊んでやって、今は別の部屋で昼寝中。
両親は出かけていて、今はリビングで姉と二人きりだ。

「…なぁ、姉ちゃん。」
「ん-、何?」

俺は雑誌を閉じて、テレビを観ている姉に話しかける。
姉はテレビに目を向けたまま、気のない返事をする。

「ちょっと…相談があるんだけどさ。」
「お小遣いならあげないわよ。」

意を決して相談を持ちかけたのに、その返答に出鼻を挫かれる。
姉に相談するような事だろうかとも思うが、誰に相談したらいいかわからねぇしな。

「違ぇよ。…真面目な相談なんだけど。」

『真面目な』と言う言葉に、姉は初めてこちらを向く。
最初は神妙な面持ちだったが、一瞬でニヤついた顔になる。
昔から勘の良い姉は、俺が恥ずかしそうにしているのを見て『相談』の内容を察したようだった。
暇つぶしのおもちゃを見つけたと言わんばかりに、ご丁寧にテレビを消して俺の向かいの席に移動して来る。

「何、モジモジしてんのよ。恋愛相談?」
「…そうだよ。」

いい答えが期待できなそうで、姉を相談相手に選んだことを一瞬後悔する。
が、相談に乗ってもらう身なので、文句は言わないことにする。

そう、相談したいのは他でもない、片思いをしている中瀬の事だ。
もうすぐ12月。
12月は大事な冬の選抜が控えているが、もう一つ…クリスマスがある。
これまでは今の関係が壊れるのが怖くて、一歩が踏み出せなかった。
けど、ようやく決心した。

クリスマス、プレゼントを渡して…中瀬に告白する。

「あら、素直。大が私に恋愛相談なんて初めてね。」
「そうだっけ?」
「そうよ。今まで何人か彼女いたのは知ってるけど、どんな子だったのかは全然知らないもの。」
「まぁ、全部向こうから告白されてなんとなく付き合ったから、相談することなんて特になかったし。」
「うわ。何それ、モテ自慢?」
「別に自慢してねぇよ…。てか、姉ちゃんの方がよっぽどモテただろうが。」
「そうなんだけどねー。」
「自慢してるのはどっちだよ…。」

弟の俺から見ても、姉はかなりの美人だ。
姉もガッツリバスケをやってたし、長身でスタイルもいい。
その見た目に反して、男前と言うか砕けた性格で、面倒見が良く友人も多い。
学生の時は男女問わずモテていたようだ。

「で、相談って?彼女のことでしょ?」
「…まだ彼女じゃねぇよ。」
「あら、片思いなの。いつから?」
「…入学式。」
「高校で知り合った子なんだ。どんな子?」

身を乗り出して、目をらんらんと輝かせる姉。
根掘り葉掘り聞きだされて、中瀬の写真まで見せる羽目になってしまった。

「へぇ…意外。もっと派手な美人系が好きなのかと思った。」
「何言ってんだよ、中瀬はすげぇ可愛いだろうが。」
「この子が可愛くないなんて言ってないわよ。思った感じと違うと言うか、あんたに似合わずいい子そうだから意外なだけ。」

この姉は…俺の事を何だと思っているんだろうか。

「どういう意味だよ。それに、中瀬は『いい子そう』じゃなくて『いい子』なんだよ。」
「…姉に対して、よく恥ずかし気もなく言ってのけるわね。」
「な、何だよ、悪いかよ。」
「別にぃ~。一生懸命フォローしちゃって、よっぽど『中瀬さん』が好きなのね。」

プププ、と手を口に添えていやらしく笑う姉。
その顔にイライラが募る。

「…そうだよ、悪いか!」
「おー照れてる照れてる。」
「…姉ちゃんに相談しようとしたのが間違いだった。」
「あは、ごめんごめん。ちゃんと聞くわよ。」

相談するのを諦めて席を立つ俺を、姉は半笑いで引き止める。
呆れ顔で姉を睨みつつ、俺は席に戻る。

「で、何を相談したいのよ。」
「…クリスマスにプレゼントあげて告白してぇんだけど、何買ったらいいかわかんなくて。」
「今だって仲いいんでしょ?欲しい物くらい、本人に聞けばいいじゃない。」
「それが出来るなら、姉ちゃんに聞かねぇって。」
「あんた、案外オクテなのね。中学の時は彼女をとっかえひっかえしてたくせに。」
「人聞きの悪い言い方すんな。部活が忙しくて長続きしなかっただけだ。」
「それもどうかと思うけど…。もし付き合えても、また部活にかまけてほったらかしにしちゃうんじゃないの?」
「…だから、今まで告白できなかったんだよ。フラれたら気まずいし。」
「それでも、告白するの?」
「…ああ。もう友達のままは嫌だ。誰かに取られるのも嫌だ。」
「中瀬さんを悲しませるかもしれないのに?」
「そうはならない。俺は…中瀬に笑っていてほしいから。」
「…そ。」

俺の答えに何故か満足そうにする姉。

「中瀬さんの事はちゃんと真剣に考えてるみたいだし、私も真面目に考えてやりましょうかね。」
「…ほんとに俺の事、何だと思ってたんだよ。」
「女好きの遊び人?」
「おい。」

自分の言葉が今さら恥ずかしくなって、茶化す姉の言葉に苦笑いして誤魔化すしかなかった。

結局、そこからは真面目に相談に乗ってくれて、プレゼントの候補が決まった。
早速プレゼントを買いに行く為に、残りのカフェオレを飲み干して席を立つ。

「姉ちゃん、サンキュな。ちょっと出かけてくる。」
「あ、待って。」
「何?」

姉は立ち上がると、ソファに置いてある自分の鞄の中をゴソゴソと探る。

「はい。」

そう言って俺に差し出したのは…一万円札。

「いらねぇよ。プレゼント代はちゃんと用意してある。」
「違うわよ、これは単に小遣い。もし付き合えたら彼女のためにお金を使うこともあるんだし、今のうちに貯めときなさい。」

小遣いはあげない、なんて言ってたくせに。
こういう時の姉は、本当に男前だ。

「上手くいったら、私にちゃんと紹介しなさいよ。」
「わかったよ。…サンキュ。」
「どういたしまして。あんたなら上手くいくわよ。私の弟なんだから!」
「ぶはっ、何だよそれ。」

なんだかんだ言っても頼りになる姉。
そんな姉ちゃんの弟で良かった…いつもそう思ってるよ。

照れくさいし、図に乗るのが目に見えてるから、口に出すのはやめておいた。
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