試合に勝って勝負に負ける
「…マジかよ。」
急がないといけないのに、思わずその場に立ち尽くす。
今日は高校に入って、初めての体育祭。
そして、今は競技の真っ最中。
借り物競争に出場している俺は、ぶっちぎり1位で借り物が書かれたカードを引いた。
そこまでは良かったのだが、そのカードに書かれていたお題が問題だった。
『好きな人』
そんなベタなお題が入っていることにも、それを自分が引いてしまう事にも驚きだ。
自分のクラスの応援席に目をやる。
「中瀬…」
その応援席にいる『好きな人』の名を呟く。
中瀬を連れ出すのか?そんなの、告白も同然じゃないか。
…でも、チャンスなのかもしれない。
これまでも、俺なりにアプローチはしていたつもりだ。
けど、いまいち彼女には伝わっていないのか、関係は進展しない。
…いや、伝わっているけど脈ナシなのかもしれない。
そう考えると、これ以上の関係を望むのが怖くもある。
そんな迷いが俺の足を縛り付ける。
その時、後から来た奴が借り物が書かれた紙を手に、俺のクラスの応援席に駆け寄った。
───ドクン
胸がざわつく。
あろうことか…そいつは中瀬を連れ出し、ゴールに向かって走り出したのだ。
「…くそっ!」
唇を噛みしめ、ダッシュで応援席に向かう。
「荻野、来い!」
「え、俺?」
「早く!1位取るぞ!」
「わ、わかったよ。」
足の速さには自信がある。
お題が何なのか知らねぇけど、中瀬を連れ出したあいつには絶対負けるわけにはいかない。
中瀬は過去の怪我であまり早く走ることは出来ない。
全力を出し切るまでもなく、あっという間に2人を追い抜いて1位でゴールした。
中瀬達はもう1組に抜かれて3位だった。
全員がゴールして、借り物の判定の為に体育祭の実行委員が俺の元に来る。
そいつは俺が渡した紙を見て一瞬目を輝かせるが、連れてきたのが荻野だと言う事に気づいて、すぐに不満げな顔になる。
「つまんね~。せっかく『好きな人』を引いたのに、何で荻野なんだよ。」
「友達なんだし、別にお題には合ってるだろ。」
「うーん…まぁ、お前が女子連れてきたら大騒ぎになるだろうし…仕方ねーか。」
「それも見てみたかったけどね。」
「…あのな。」
荻野がいらぬ横やりを入れる。
こいつは俺が中瀬を好きな事を知っている。
もの言いたげにニヤついているのを見て見ないふりをし、小さくため息を吐く。
急いでたから、咄嗟に荻野を連れ出したけど…後でめちゃくちゃイジってくるんだろうな、コイツ。
実行委員が2位の判定も終えて、3位の中瀬達の元へ。
背中を向けて関心のないふりをしつつ、聞き耳を立てる。
「えっと『赤い靴の人』か。確かにめっちゃ赤いスニーカーだね。」
「赤、好きなんで…。」
へぇそうか、中瀬は赤が好きなのか、なんて思いつつ、『好きな人』とかでなかった事にホッとする。
中瀬を連れ出す時に手を掴んでいた事は許せねぇけど、正直…少し安心してしまった。
あいつが中瀬を先に連れ出した事に。
…中瀬を連れ出せなかった口実が出来た事に。
俺の気持ちを知ってほしい。
けど、中瀬の気持ちを知るのは怖い。
この気持ちに決着がつく日は来るのだろうか。
…出来れば、その日が佳きものであるよう。
応援席に戻る途中、荻野が小さく呟いた。
「よかったね、あっちも『好きな人』じゃなくて。」
「…うるせー。」
急がないといけないのに、思わずその場に立ち尽くす。
今日は高校に入って、初めての体育祭。
そして、今は競技の真っ最中。
借り物競争に出場している俺は、ぶっちぎり1位で借り物が書かれたカードを引いた。
そこまでは良かったのだが、そのカードに書かれていたお題が問題だった。
『好きな人』
そんなベタなお題が入っていることにも、それを自分が引いてしまう事にも驚きだ。
自分のクラスの応援席に目をやる。
「中瀬…」
その応援席にいる『好きな人』の名を呟く。
中瀬を連れ出すのか?そんなの、告白も同然じゃないか。
…でも、チャンスなのかもしれない。
これまでも、俺なりにアプローチはしていたつもりだ。
けど、いまいち彼女には伝わっていないのか、関係は進展しない。
…いや、伝わっているけど脈ナシなのかもしれない。
そう考えると、これ以上の関係を望むのが怖くもある。
そんな迷いが俺の足を縛り付ける。
その時、後から来た奴が借り物が書かれた紙を手に、俺のクラスの応援席に駆け寄った。
───ドクン
胸がざわつく。
あろうことか…そいつは中瀬を連れ出し、ゴールに向かって走り出したのだ。
「…くそっ!」
唇を噛みしめ、ダッシュで応援席に向かう。
「荻野、来い!」
「え、俺?」
「早く!1位取るぞ!」
「わ、わかったよ。」
足の速さには自信がある。
お題が何なのか知らねぇけど、中瀬を連れ出したあいつには絶対負けるわけにはいかない。
中瀬は過去の怪我であまり早く走ることは出来ない。
全力を出し切るまでもなく、あっという間に2人を追い抜いて1位でゴールした。
中瀬達はもう1組に抜かれて3位だった。
全員がゴールして、借り物の判定の為に体育祭の実行委員が俺の元に来る。
そいつは俺が渡した紙を見て一瞬目を輝かせるが、連れてきたのが荻野だと言う事に気づいて、すぐに不満げな顔になる。
「つまんね~。せっかく『好きな人』を引いたのに、何で荻野なんだよ。」
「友達なんだし、別にお題には合ってるだろ。」
「うーん…まぁ、お前が女子連れてきたら大騒ぎになるだろうし…仕方ねーか。」
「それも見てみたかったけどね。」
「…あのな。」
荻野がいらぬ横やりを入れる。
こいつは俺が中瀬を好きな事を知っている。
もの言いたげにニヤついているのを見て見ないふりをし、小さくため息を吐く。
急いでたから、咄嗟に荻野を連れ出したけど…後でめちゃくちゃイジってくるんだろうな、コイツ。
実行委員が2位の判定も終えて、3位の中瀬達の元へ。
背中を向けて関心のないふりをしつつ、聞き耳を立てる。
「えっと『赤い靴の人』か。確かにめっちゃ赤いスニーカーだね。」
「赤、好きなんで…。」
へぇそうか、中瀬は赤が好きなのか、なんて思いつつ、『好きな人』とかでなかった事にホッとする。
中瀬を連れ出す時に手を掴んでいた事は許せねぇけど、正直…少し安心してしまった。
あいつが中瀬を先に連れ出した事に。
…中瀬を連れ出せなかった口実が出来た事に。
俺の気持ちを知ってほしい。
けど、中瀬の気持ちを知るのは怖い。
この気持ちに決着がつく日は来るのだろうか。
…出来れば、その日が佳きものであるよう。
応援席に戻る途中、荻野が小さく呟いた。
「よかったね、あっちも『好きな人』じゃなくて。」
「…うるせー。」
1/1ページ