彦星ではないけれど

7月7日。
今日は俺の誕生日。
昨日が日曜日で部活が休みだったから、久莉奈にはもうお祝いをしてもらった。
好きな人が誕生日を一緒に祝ってくれる。
正直、こんなに幸せな気持ちになれるとは思わなかった。
久莉奈に出会ってなかったら、知る事が出来なかったんだろう。

誕生日当日と言うのもあって幸せの余韻が残っているけど、インターハイが目前に迫っている。
部活はいつも以上に気合いを入れて取り組む。
そして部活後はいつも通り自主練。
今日は久莉奈も残って手伝ってくれている。
いつもは帰りが遅くなるから先に帰ってもらうことが多いけど、「一緒に帰りたい」と言われてしまっては断るわけにはいかない。

自主練も終え、久莉奈を家まで送る。
最寄り駅に着いて、手を繋ぎながら夜道を歩く。
通り道にあるいつもの公園が見えてきた時、

「大君、公園寄っていかない?」

と、珍しく久莉奈が誘ってくれた。
もっと一緒にいたい俺としては願ってもない提案だけど

「寄りたいけど、時間大丈夫か?」
「大丈夫。遅くなるって言ってあるし。ちょっと…話と言うか、用事もあって。」
「?」

少しソワソワした様子の久莉奈。
誕生日プレゼントはもうもらってるし、『用事』が何なのか検討もつかない。

「じゃあ、ちょっとだけな。」
「うん。」

俺が了承すると、久莉奈の表情が少し明るくなる。

悪い話、というわけではなさそうだな…。

「はい。」
「サンキュ。」

公園に入ると、久莉奈が自販機で飲み物を2つ買う。
俺はココア、久莉奈はミルクティ。
この公園ではお決まりの組み合わせ。

「大君、改めてお誕生日おめでとう。」

そばのベンチに座ると久莉奈がミルクティの缶をこちらに向け、乾杯をしてくれる。

「サンキュ。昨日いっぱいお祝いしてもらったけどな。」
「うん。でも誕生日は今日だし、お祝いの言葉は何回でも言いたいもん。」

ふふ、と笑う久莉奈。
俺の事でこんなにも嬉しそうにしてくれるのが、何よりも嬉しい。

「あのね…」

ミルクティを一口飲んだ後、久莉奈はまたソワソワしながら鞄から何かを取り出した。

「実は、これを渡したくて。」

久莉奈が差し出したのは、シンプルなラッピングがされた無地の袋。
ノートより少し小さいくらいで厚みもそんなにない。

「これは?」
「…誕生日プレゼント。」
「昨日貰ったぞ?」
「これ…去年用意した物なの。」
「えっ!?」

驚きのあまり、大きな声を出してしまった。
去年はまだ付き合う前で、久莉奈からは特にお祝いはされなかった。
約束したわけじゃなかったけど、おめでとうの言葉だけでも…と密かに期待していたから、ちょっとだけガッカリしたっけな。
でも、まさかプレゼントを用意してくれていたなんて。

「去年はね、大君の事好きって気づいたばかりで、渡す勇気がなくて。
何をプレゼントすればいいかわからなくて、喜んでもらえる自信もなかったし。
でも…やっぱり大君にあげたくて用意した物だから、貰ってほしくて。」
「…ありがとう。」

久莉奈の手からプレゼントを受け取る。
緊張の面持ちだった久莉奈が表情を少し緩めた。

「…なんか、片思いしてた時の事思い出して、貰ってくれるかなってドキドキしちゃった。」
「はは。久莉奈からだったら、ゴミだって喜んで受け取るのに。」
「そんなの渡さないって。」

ちょっと呆れながらも、でもどことなく嬉しそうな顔。
冗談めかして言ったけど、割と本気だ。

「見てもいい?」
「うん。…ちょっと恥ずかしいけど。」

またソワソワしだす久莉奈。
喜んでもらえる自信がなかったって言ってたけど、俺を想って選んでくれたことだけで嬉しいのに。
そっと袋を開ける。
中に入っていたのは馴染みのある物。

「これ、部活用のインナー?」
「ごめんね!センスないよね、普段使ってる物なんて。本当はもっとオシャレな物が見つけられれば良かったんだけど…。」

恥ずかしそうに必死に謝る久莉奈。
確かに、プレゼントで貰ったことはない物だ。
…けど

「久莉奈…何でこのメーカーのにしたの?」
「えっ?…だって、いつもそれ着てるでしょ。」

俺の質問に要領を得ない、と言った顔。

「何で、それ知ってたんだ?」
「…大君の事、少しでも知りたくて…いつも見てたから。」

次の質問で意味を理解したのか、顔を真っ赤にしながら俯く久莉奈。
俺も久莉奈の言葉にかぁっと全身が熱くなって、思わず口元を押さえる。

「やべぇ…すげぇ嬉しい。」
「…ほんと?」

久莉奈がぱっと顔を上げる。

「当たり前だろ!プレゼント用意してくれてただけでも嬉しいのに、俺が使ってる物を知っててくれてたんだぜ。」
「大君…。」
「ありがとう。本当にめちゃくちゃ嬉しいよ。」
「良かった…。渡すの、遅くなってごめんね。」
「全然!すっげぇ最高の誕生日だよ!」

久莉奈の手をギュッと握ると、涙ぐみながら笑顔を見せてくれる。

1年越しにこの時の久莉奈の思いに触れることができて、より一層幸せな誕生日になったよ。

***

「インターハイ、このインナーがあれば頑張れそうだよ。」
「同じのたくさん持ってるんだろうし、どれが私のプレゼントかわからなくなっちゃうんじゃない?」
「じゃあ、久莉奈の名前でも入れとこうか。それならもっと頑張れる。」
「もう…調子いいんだから。」
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