織姫にはなれなくて

「モロ、誕生日七夕なの?」

6月のとある昼休み、教室の少し離れたところから聞こえた声。
諸星君と一緒にお昼を食べている荻野君が発した言葉に、私は思わずお弁当を食べる手を止めた。

「そうだよ、来月。」
「誕生日まで星なのか。なら、今度から彦星って呼ぶか。」
「おい、やめろ。」

からかう荻野君を諸星君は軽くあしらう。
このやり取りを聞いて、クラスメイトの何人かが諸星君の元に集まってきた。
お祝いしよう、なんて盛り上がっている。

…諸星君、もうすぐ誕生日なんだ。

「久莉奈?どうかしたの?」

一緒にお昼を食べている友達が、不思議そうにこちらを見ている。

「な、何でもないよ。」

平静を装って私は止めていた手を動かす。
諸星君の事が一つ知れたのが嬉しくて、心臓がドキドキと高鳴っている。
頬が緩みそうになるのを必死に堪えながら、なんとかこの時間をやり過ごした。

***

「うーん…」

部活のない休日、私は一人買い物にやって来た。
諸星君の誕生日プレゼントを探しに来たものの、何も見つけられずにお店に入ってはただ彷徨うだけを繰り返している。

諸星君が好きだと気づいたのは最近の事。
でも、入学してまだ3ヶ月だし、同じクラス、同じ部活っていうだけの関係。
だから、私は彼の事を何にも知らない。

諸星君は優しいから、何でも喜んでくれそうな気はするけど…。

そう思っても、これだ、という物は中々見つからない。
午前中からろくに休憩も取らずに歩き回って、気が付けばもう夕方。
何も成果が得られていない焦りもあって、心身共にくたくただ。

「…ここで見つからなければ諦めよう。」

最後に選んだのは、小さなスポーツ用品店。
スポーツ関連の店は既に何件か回っている。
彼との繋がりはバスケなのだからプレゼントが見つけやすいかもしれない、とバスケ関連の物を重点的に探したのだけど結果はこの通り。
この小さな店も正直、期待は出来ない。
もう目ぼしい店もなく、それでも諦めきれずに最後の悪あがきだ。

商品がところ狭しと並べられた店内を回る。
それでもバスケ関連のコーナーはスペースが小さくて、すぐに見終わってしまいそうだ。

「あ…これ。」

そんな中、目についたとある商品を手に取る。
諸星君がバスケをする時に使用しているインナーだ。

「これなら気がねなく使ってくれるかな…。」

そうは思ったものの、誕生日プレゼントにはちょっと相応しくない気もする。
けど、プレゼントを渡す約束をしたわけでもない。
そこまで親しい間柄かも怪しい。
だったら、心に残らないような、特別感がない物の方がいいのかもしれない。

喜ぶ顔が目に浮かぶ…とはちょっと思えないけど、これにすることにした。
やっと見つけられた安心感と解放感から、少し軽くなった気持ちと足取りで店を後にした。

***

7月5日。
誕生日当日は日曜日で部活も休みなので、今日プレゼントを渡すつもりだ。
ただ渡すだけなのに、緊張して全然眠れなかった。
ちょっとボーっとする頭で学校に向かう。
朝のHR前の教室、諸星君の元には誕生日をお祝いするクラスメイトが集まってきている。
プレゼントを渡している子も何人かいる。

やっぱり人気者なんだな、諸星君って。

その様子を少し離れた席からぼんやり眺める。
みんなに混ざってプレゼントを渡せばいい、そう思うのに体が動かない。
他の子がどんなプレゼントを選んだかなんてわからない。
けど、綺麗にラッピングされていたりして、私の選んだ物は見劣りする。
納得して決めたはずなのに、喜んでもらえる自信がない。
みんなと楽しそうに笑う諸星君が、いつもより遠い存在に感じられる。

そもそも誕生日の話をしていた時、その場にいたわけじゃないのにプレゼントを用意しているなんて気持ち悪いよね…。

後ろ向きな考えばかりが、頭の中をグルグル巡っている。
結局、昼休みになっても、放課後になっても、諸星君に話しかけることすら出来ずじまい。
重い頭と足取りで部活に向かう。


「ボーっとしてるけど、大丈夫?」

部活中、声をかけられて我に返る。
すぐ横には、私の顔を覗き込むキャプテンの姿。

「具合悪いのか?」
「だ、大丈夫です。…ただの寝不足です。」
「ならいいけど。でも、ちゃんと出来ないんなら、いてくれなくていいよ。」
「…すみません、気をつけます。顔洗ってきます。」

逃げるようにその場を離れ、体育館の外の水道場に駆け込む。
キャプテンの厳しい言葉に、自分が情けなくなる。
インターハイまでは1ヶ月を切っている。
部員達の士気は今が一番高まっている時だ。
それなのにみんなのやる気を削いだり、練習の邪魔をするようなことをしてはいけない。

もう、考えるのはやめよう、部活に集中しなきゃ。
お祝いは出来なくても、マネージャーとして諸星君の助けになれれば…それでいいんだ。

顔に水を思いっきりかけて、こみ上げた涙を洗い流す。
そして、この気持ちに無理やり蓋をして、体育館へと戻った。

***

帰宅して、机の引き出しの奥にプレゼントをしまい込む。
これを渡せる日なんて、来ないかもしれない。
けど…いつか、渡せる日を夢見て。
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