セカンド・ファーストキスはミルクティと共に

2月14日、バレンタインデー。
土曜で学校は休みだけど部活はあるから、久莉奈とバレンタインデート…とはいかず。
それどころか、昨日は俺が休み時間の度にチョコを持った女子に捕まってしまったせいで、久莉奈とは話もろくに出来なかった。
今日も久莉奈は忙しそうで、まだ話せていない。
いつも通りではあるけど、意図的に俺を避けてるようにも見えてしまう。

嫌な思いさせちまったから、きっと怒ってるよな…。

久莉奈の事は気になるけど、俺もいつも通り練習をこなす。
そして夕方、練習が終わってから俺は一人居残って自主練。
今日くらいはナシにしてもとは思ったけど、毎日している事だからやらないと気持ちが悪い。
昨日の事も居残り練習の事も、久莉奈は話せばきっとわかってくれる。

…なんて、久莉奈に甘えきってるな。

せめて先に話をしておこうと思ったけど、姿が見当たらない。
別の場所で作業しているのか、それとも、もう帰ってしまったのか。
…もし帰ってしまったなら、終わったらすぐに連絡しよう。
ふぅ、と溜息を一つつき、自主練を始める。

「大君。」

少しして、後ろから声をかけられた。
手を止めて振り向くと、久莉奈の姿。
まだジャージを着ていて、帰り支度はしていないようだ。

「…帰っちゃったのかと思った。」
「ううん、部室で作業してたの。まだちょっとやる事あるから、それが終わったら練習手伝うね。」
「付き合ってくれるのか?帰り遅くなっちまうだろ。」
「大丈夫。今日チョコ渡したいから。」
「…怒ってないのか?」
「えっ、何で?」
「昨日から話も出来てねぇから…。今だって久莉奈ほったらかして自主練してるし。チョコ、全部は断り切れなかったし。」
「練習の邪魔はしたくないからいいんだって。チョコだって、ちゃんと断ってくれてたんだから、怒ることなんてないじゃない。」

久莉奈は微笑んだ後、

「…でも、大君を取られた気がして、ちょっとだけヤキモチ焼いちゃったけど…」

小さくそう言って、目線をそらした。
その姿が可愛らしくて、思いっきり抱きしめたくなるが、汗だくの体でそんなことするわけにはいかない。

「じゃ、じゃあ、すぐ終わらせてくるね。」

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、久莉奈は顔を赤くしながらその場を離れていった。

「うん、サンキュ!」

そんな姿も微笑ましくて、たまらなく愛おしくて、思わず笑みが零れた。

***

練習後、帰り支度を済ませて、部室で久莉奈と二人きりの待ちわびた時間。
ちょっと寒いけど、温かい飲み物も用意して準備は万端。

「大君、これバレンタイン。」

久莉奈が鞄から綺麗にラッピングされた箱を取り出して、俺に差し出す。

「ありがとう。…良かった、貰えねぇのかと思った。」
「まさか。」

ふふ、と久莉奈が笑う。
箱を開けてみると、中には小さなハート型のカップに入ったチョコケーキが数個入っている。

「美味そう!手作り?」
「うん、ガトーショコラだよ。」
「一個食っていい?腹減っててさ。」
「うん、どうぞ。」
「やった、いただきます。」

ガトーショコラを一口頬張る。
久莉奈は心なしか緊張の面持ちで、こちらをジッと見る。

「うま!これ、一生食える!」
「もう、大袈裟なんだから。」

そう言いながらも、久莉奈は嬉しそうにしてくれる。
腹が減ってるから一気に食いたいところだけど、なくなるのがもったいなくてゆっくりと味わった。

「美味かったよ、ごちそうさま。残りは帰って大事に食うよ。」
「良かった、喜んでもらえて。」

久莉奈は安心したのか、椅子にもたれかかりミルクティを一口。
俺はガトーショコラの箱を鞄にしまうと、代わりに小さな箱を取り出して、久莉奈に差し出した。

「…じゃあ、次は俺の番。」
「え?何?」

久莉奈が心底驚いた様子でこちらを見る。
そりゃそうだろう、サプライズで用意した物なんだから。
箱と俺の顔を交互に見て、躊躇いながらも箱を受け取る。

「これは?」
「俺から久莉奈にバレンタイン。」
「えっ!?でも…」
「海外だと、バレンタインは男から好きな人に贈り物をするんだぜ。だから何もおかしくないだろ。」

なおも驚いた様子で、手の中の箱を見る。
久莉奈がくれたのよりも小さな箱。
だけど、喜んでもらいたくて一生懸命選んだ物だ。

「…いいの?」
「もちろん。久莉奈にあげたくて買ったんだから。」
「…ありがとう。嬉しい。」

顔を少し紅潮させて笑みを見せる。
その表情を見られるだけで、あげた甲斐がある。

「あ、だったら、ホワイトデーはなしでいいからね?」
「それはそれ。ホワイトデーはバレンタインのお返しをする日なんだから。ちなみにホワイトデーは日本発祥で、女子から男にお返しする日じゃないからな。」

予想通りの久莉奈の反応。
付け焼刃だけど、ホワイトデーの知識を仕入れといて良かった。
でも、久莉奈はまだ納得いかない様子。

「…私のほうがたくさん貰っちゃうなんて、なんか悪いよ。」
「ははっ、今回のは俺がカッコつけたくてしただけなんだから、遠慮しなくていいんだよ。」
「…カッコつけなくても、十分カッコいいのに。」

ぽそっと小さく呟いた一言を俺は聞き逃さなかった。
思わず出た言葉なのか、久莉奈は急に顔を真っ赤にして口元を押さえる。
そして、露骨に俺から顔をそらした。

「久莉奈。」
「……何?」

恥ずかしそうに俯いている久莉奈が、こちらをチラリと見る。
間髪入れずに、俺は久莉奈の唇に押し付けるようにキスをした。

「キスしていい?」
「…もうしてる。」
「久莉奈が可愛いから仕方ないだろ。」
「…」

少しの沈黙の後、久莉奈は一瞬目を伏せるとゆっくりと俺に顔を近づける。
ぎこちなく、優しく触れるだけのキス。
離れた時にふわっとミルクティの甘い香りが漂う。
久莉奈からキスをされたのが初めてで、俺は思わず口元を押さえた。

「…お返し。」

まだ恥ずかしそうにしながらも、悪戯っぽく微笑む。
その仕草に、俺の心はまた打ちのめされてしまうのだった。


…まったく、久莉奈には敵わないな。
俺がどれほど君に夢中になっているか、きっと言葉では伝えきれない。
だから…一生かけて、たくさん伝えるから。
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