杪夏の女神

「あまりご利益なかったな…このお守り。」

インターハイが終わった帰りの新幹線、私は手のひらに乗せたそれを眺めながら独りごちる。

「何それ?」

いつの間にか私の隣に座っていた大君が、私の手の中を覗き込む。

「だ、大君。」
「お守り?いつから持ってたんだ?」

このお守りは愛知県予選が始まる前に、とある神社で授かったもの。
正直、信心深いわけではないから、都合のいい時にしか神様を信じない。
それでも…高校最後の夏、大君の悲願達成を神様にお願いせずにはいられなかった。

「予選前に…お参りしてきたの。」
「…そっか。」
「大君は…試合前に神様に勝利をお願いしたりする?」
「ん?しねぇよ。実力で勝たなきゃ何の意味もない。」

…そうだよね、大君はそういう人。
自分の力で勝ち取るために、毎日頑張ってる。
それもあってか、このお守りの事は何となく言えなかった。
大君のそういうところを、私はとても尊敬してる。
でも大君らしくない、少し突き放すような言い方が何だか寂しくなる。
私のしたことは馬鹿げてると思ったのかもしれない。

「…でも」
「え?」
「俺は神頼みなんてしねぇけど…久莉奈がお参りをしてくれて、お守りを用意してくれたのはすっげぇ嬉しいよ。」
「…大君。」
「ありがとな。きっと久莉奈の願いは神様に届いてる。願いは叶わなかったんじゃなくて、俺にはその必要はないと神様が思ったんだよ、きっと。」

私の頭を優しくポンと撫でて、いつもみたいにニカっと笑いかけてくれる。

ああ…だから私は大君が大好きなんだ。

「…そうだね。」

こみ上げる涙を堪えて、私は精一杯微笑み返した。

「それはそれとしてさ、良かったらそのお守り…俺にくれないか?」
「何で…?」

私の問いに大君は何故か照れくさそうに頬を掻いた。

「…神様の力は必要ないけど、俺だけの女神様の力は必要だから、さ。」
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