月下の誓い

インターハイ愛知県予選最終日。
試合が終わった後、私と大君は名古屋まで来てくれた紳一達と合流した。
負けた悔しさをおくびにも出さず、大君は神奈川の親友達と楽しげにしている。
紳一もそれをわかっているのか、その事には触れずにいてくれる。
桜木君と清田君の賑やかさにも、少し救われた気持ちになる。

…紳一達が来てくれて、良かったかもしれない。

一緒にお昼を食べた後、彼らを見送るために名古屋駅までやってきた。
人がごった返す新幹線乗り場の改札前、大君が紳一の肩をポンと軽く叩く。

「じゃあな、牧。次は全国で会おうぜ。」
「ああ、見送り悪いな。」
「気を付けてね。」

改札越しに三人が見えなくなるまで手を振って見送ると、大君は私の手を握って微笑む。

「さ、俺達も帰ろうぜ。」
「…うん。」

私の家まで送ってくれると言う大君と、帰路につく。
お互いの家が少し離れてるし、試合の後は早く帰って休んでもらいたいから、いつもは遠慮するけど…今日は少しでも長く二人でいたかった。

最寄り駅に着いて、いつもの公園の前を通りかかる。

「大君、ちょっと寄ってこうよ。」

いつもは寄りたがる大君が素通りしようとしたのを呼び止め、私は返事を待たずに公園に入る。

「……」

大君はもの言いたげではあったけど、黙ってついて来てくれる。
私は自販機でいつもの飲み物を買う。

「はい。」
「…サンキュ。」

大君にココアを渡していつものベンチに座ると、大君も隣に座った。
私はミルクティの缶を開けると、大君に缶を向ける。

「予選、お疲れ様。」
「あ、ああ…」

大君も缶を開けると、小さく乾杯をする。

「久莉奈もお疲れ。」
「ありがと。ところで、腰…本当に大丈夫?」
「平気だよ。もうどうってことない。」
「少しでも痛みあったら病院行ってね。」
「ああ、わかってるよ。」

それから暫くは当り障りのない話をする。
負けて悔しいはずなのに、大君はいつも通り明るく振舞っている。
私はそんな大君を尊敬しているけど…同時に寂しさも感じる。
でもどう切り出していいか考えあぐねていくうち、時間が過ぎていく。
缶の中身が空になって周りが薄暗くなってきた頃、私はおもむろに大君の目の前に立った。

「…大君」
「どうした?」

私の顔を見上げた大君の頭に腕を回すと、そっと胸元に引き寄せる。

「く、久莉奈?」
「大君はいつも私の前で笑っていてくれるけど…私はもっと色んな表情が見たいな。」
「…どういう意味?」
「笑いたくない時は、無理に笑わなくていいよ。」

私は少し体を離して、大君の顔を見つめながら頬にそっと触れる。

「私はそばにいることしか出来ないけど…大君が人に見せたくない部分を、私には見せてくれたら…嬉しいな。」
「…久莉奈」

眉間にしわを寄せて顔を歪めた大君は、私の胸に顔を埋めると背中に腕を回して、私の体を強く抱きしめる。
私はそんな大君の背中をゆっくり何度もさする。

「最後のインターハイなのに…キャプテンなのに…優勝させてやれなかった。」
「うん…」
「怪我なんかして、思うように出られなかったのが…悔しい。」
「…うん」

大君は小さな声で「悔しい」と何度も呟く。
その気持ちが痛いほど伝わってきて、涙がこみ上げてくる。
けど、私が泣いてしまったら、大君が気持ちを吐き出せなくなる。
だから…今は泣かない。

どれくらいそうしていたか、大君が腕の力を緩めて、ゆっくりと顔を上げた。
目が合うと、大君はちょっと照れくさそうにはにかむ。
その表情はさっきよりも晴れやかで、私も頬を緩める。

「ありがとう、久莉奈。おかげでスッキリした。」
「…良かった。」
「優勝を逃したのはめちゃくちゃ悔しいけど、全国には行けるんだ。そっちで結果を出すよ。」
「うん、大君なら出来るよ。」
「…かっこ悪いところ、見せちまったな。」
「かっこ悪くなんかない。とても嬉しかった。それに、人前で弱さを見せないところは…かっこ良いよ。」
「そうか…?」
「うん。今日の追い上げだって、とてもかっこ良かった。今日、一番活躍したのは大君だよ。」
「…久莉奈がそばで見守ってくれるなら、これからも活躍できるよ。」
「私は…ずっと大君だけ見てるよ。」

その言葉に大君はニカっと笑うと、また私を強く抱きしめてそのまま立ち上がった。
急に抱き上げられて、私は慌てふためく。

「きゃっ!?だ、大君!?」
「それなら何も怖いもんはねぇな!明日からまた練習頑張れるよ!」
「…うん!」

大君の無邪気な笑顔に、私も嬉しくなる。
色んな表情を見せてほしいのは、嘘じゃない。
でも、大君にはやっぱり笑顔が似合う。
そんな大君を…私はずっとずっとそばで見守ってるからね。
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