ドーベルマンの瞳は鋭く
『ごめん、電車が遅れてる。待ち合わせ時間過ぎちゃう。』
『わかった、待ってるね。』
大君からのメールに返信をして、携帯を閉じる。
とある日曜日の午前中。
私と大君は休みの日恒例のデート。
いつもはどちらかの家に行くことが多いけど、丸一日、部活も用事もないのは久しぶりだし、ショッピングでも行こうってことになって、あまり来たことのないこの繁華街にやってきた。
「すみません。」
「はい?」
メールを返してから数分後、後ろから妙に落ち着いた口調で声をかけられる。
道でも聞かれるのかと思って、即座に振り向いてしまったことを、私はすぐに後悔した。
大学生くらいのその男の人は、私の顔を見るなり態度を変えて一気にまくし立てる。
「おっ、可愛いじゃーん、ラッキー!一人?これから二人でどっか行こうよ!」
しまった、ナンパだったか…。
私は精一杯顔をそらして、拒絶の意思表示をする。
「…彼と待ち合わせしてますんで。」
「こんな可愛い子待たせる奴なんて、ほっとけばいいじゃん。なー行こうよー。」
そう言うとナンパ男は、私の左肩に手を伸ばしてきた。
ぞわり、と全身に悪寒が走り、私は反射的に後ずさりをする。
が、すぐに誰かとぶつかってしまった。
咄嗟に振り返ろうとした時、後ろから両肩をそっと掴まれる。
ビックリして肩が小さく跳ねるが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「俺の彼女に何か用?」
直後、私の真後ろ、少し高いところから降ってきた声。
落ち着いた口調ではあるけど、凄みを感じる。
でも、聞き慣れたその声に、私はものすごく安心感を覚える。
離さないと言わんばかりに、私の両肩に乗せられたその手に、ほんの少し力が込められる。
「用があるなら、俺が代わりに聞くけど?」
「…大君。」
後ろを振り返ると、そこには待ち侘びていた人の姿。
でも、いつもと違うのは、ナンパ男を睨みつける鋭く光る眼。
試合中でも、こんなに険しい表情…見たことない。
「な、なんだ、彼氏待ってたのか~。ならそう言ってよ~。」
「…言いましたけど。」
「ツレがいるのわかってるのに、どこかに連れて行こうとしたわけ?」
私の言葉に、大君の表情がより一層険しくなる。
このままだと、ナンパ男に飛びかかりそうな勢いだ。
「いや、ごめんて~!もう行くから!二人とも仲良くね!」
身長差がある大君に凄まれたからなのか、大君の顔が相当険しいからなのか、はたまた両方か。
気圧されたナンパ男は、ヘラヘラしながらこの場を去って行った。
「遅れてごめん!大丈夫だったか?」
ナンパ男の姿が雑踏に消えるまで前を睨みつけていた大君が、私の目の前に移動する。
その瞳にさっきの鋭さは、もう見当たらない。
その代わり、眉をめいっぱい下げて、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ほんとごめんな。俺が遅れなければ、こんな目に合わずに済んだのに。」
「ううん、大丈夫。…むしろ、ちょっと得した気分だから気にしないで。」
「…ナンパされたから?」
「まさか。ナンパはすごく嫌だったし、怖かったよ。」
「じゃあ…何で?」
「大君の、ものすごく怒った顔が見れたから。」
大君の表情はいつもクルクル変わる。
私の「得した」発言にわずかに眉をひそめた大君が、今度は目を丸くして驚いた様子を見せる。
「そんなの見て、得なのか?」
「私のために怒ってくれたんだし。それに、そんな大君、見たことなかったなーと思って。」
「そりゃ、彼女がナンパされてたらキレるだろ。でも俺のせいだから、遅刻した自分にも腹立ってるんだけど。」
「…ふふっ。」
大君はとても私を大事にしてくれる。
それがすごく嬉しくて思わず漏れてしまった笑いに、今度は不服そうに唇を尖らせる。
「なんで笑うのさ。」
「大君らしいな、と思って。さ、行こうよ。」
「…なんか、納得いかねぇな。」
「気にしない、気にしない。」
私は頬を緩ませたまま、未だ唇を尖らせている大君の手を引いていそいそと歩き出した。
『わかった、待ってるね。』
大君からのメールに返信をして、携帯を閉じる。
とある日曜日の午前中。
私と大君は休みの日恒例のデート。
いつもはどちらかの家に行くことが多いけど、丸一日、部活も用事もないのは久しぶりだし、ショッピングでも行こうってことになって、あまり来たことのないこの繁華街にやってきた。
「すみません。」
「はい?」
メールを返してから数分後、後ろから妙に落ち着いた口調で声をかけられる。
道でも聞かれるのかと思って、即座に振り向いてしまったことを、私はすぐに後悔した。
大学生くらいのその男の人は、私の顔を見るなり態度を変えて一気にまくし立てる。
「おっ、可愛いじゃーん、ラッキー!一人?これから二人でどっか行こうよ!」
しまった、ナンパだったか…。
私は精一杯顔をそらして、拒絶の意思表示をする。
「…彼と待ち合わせしてますんで。」
「こんな可愛い子待たせる奴なんて、ほっとけばいいじゃん。なー行こうよー。」
そう言うとナンパ男は、私の左肩に手を伸ばしてきた。
ぞわり、と全身に悪寒が走り、私は反射的に後ずさりをする。
が、すぐに誰かとぶつかってしまった。
咄嗟に振り返ろうとした時、後ろから両肩をそっと掴まれる。
ビックリして肩が小さく跳ねるが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「俺の彼女に何か用?」
直後、私の真後ろ、少し高いところから降ってきた声。
落ち着いた口調ではあるけど、凄みを感じる。
でも、聞き慣れたその声に、私はものすごく安心感を覚える。
離さないと言わんばかりに、私の両肩に乗せられたその手に、ほんの少し力が込められる。
「用があるなら、俺が代わりに聞くけど?」
「…大君。」
後ろを振り返ると、そこには待ち侘びていた人の姿。
でも、いつもと違うのは、ナンパ男を睨みつける鋭く光る眼。
試合中でも、こんなに険しい表情…見たことない。
「な、なんだ、彼氏待ってたのか~。ならそう言ってよ~。」
「…言いましたけど。」
「ツレがいるのわかってるのに、どこかに連れて行こうとしたわけ?」
私の言葉に、大君の表情がより一層険しくなる。
このままだと、ナンパ男に飛びかかりそうな勢いだ。
「いや、ごめんて~!もう行くから!二人とも仲良くね!」
身長差がある大君に凄まれたからなのか、大君の顔が相当険しいからなのか、はたまた両方か。
気圧されたナンパ男は、ヘラヘラしながらこの場を去って行った。
「遅れてごめん!大丈夫だったか?」
ナンパ男の姿が雑踏に消えるまで前を睨みつけていた大君が、私の目の前に移動する。
その瞳にさっきの鋭さは、もう見当たらない。
その代わり、眉をめいっぱい下げて、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ほんとごめんな。俺が遅れなければ、こんな目に合わずに済んだのに。」
「ううん、大丈夫。…むしろ、ちょっと得した気分だから気にしないで。」
「…ナンパされたから?」
「まさか。ナンパはすごく嫌だったし、怖かったよ。」
「じゃあ…何で?」
「大君の、ものすごく怒った顔が見れたから。」
大君の表情はいつもクルクル変わる。
私の「得した」発言にわずかに眉をひそめた大君が、今度は目を丸くして驚いた様子を見せる。
「そんなの見て、得なのか?」
「私のために怒ってくれたんだし。それに、そんな大君、見たことなかったなーと思って。」
「そりゃ、彼女がナンパされてたらキレるだろ。でも俺のせいだから、遅刻した自分にも腹立ってるんだけど。」
「…ふふっ。」
大君はとても私を大事にしてくれる。
それがすごく嬉しくて思わず漏れてしまった笑いに、今度は不服そうに唇を尖らせる。
「なんで笑うのさ。」
「大君らしいな、と思って。さ、行こうよ。」
「…なんか、納得いかねぇな。」
「気にしない、気にしない。」
私は頬を緩ませたまま、未だ唇を尖らせている大君の手を引いていそいそと歩き出した。
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