サニーサイド

「…食ってみてぇなぁ。」

昼休み、机に頬杖をついて教室の少し離れた所をぼんやり眺める。

「何を?」

思わず漏らした声に反応したのは、同じクラスで同じバスケ部の荻野だ。
いつの間にか購買から戻ってきていた荻野は、俺の前の席に腰を下ろす。

「あ、いや…」

独り言を聞かれてたとは思わず、動揺する俺。
荻野は俺がさっき見ていた方向を一瞥すると、ニヤリと笑う。

「あーなるほど。」
「おい、誤解すんな。俺は中瀬さんの弁当の玉子焼きが食ってみたいだけだ。」
「へぇ、相手はやっぱりマネージャーか。ベタだねー。」

…しまった。

愛和学院に入学してまだわずか。
高校で知り合った中瀬さんに一目ぼれしてしまったことは、誰にも話していない。
けど、妙に鋭い荻野は薄々気づいていたようだ。

「…何のことだよ。」
「とぼけなくっていいって、誰にも言わねーから。けど、何で玉子焼き?」

このままシラを切り通そうかとも思ったが、無駄だと諦めて小さくため息をつく。

「…あの玉子焼き、中瀬さんが作ってるんだってよ。」
「へぇ?」
「自分で弁当作るのはたまにらしいけど、玉子焼きだけは得意だから毎日作ってるって、前に言ってた。」
「詳しいね。本人に聞いたの?」
「…他の女子と話してるのを聞いたんだよ。」
「盗み聞きなんて悪趣味~。」
「…悪いか。」

…くそ、弱みを握られた気分だ。

話を終わらせたくて、体を横にそらすと弁当をかきこむ。
それでもなお、荻野は話を続ける。

「作ってって頼めば?」
「いきなりそんなこと頼むの、変な奴に思われるだろ。」
「いつも女子にもガンガン話しかけてんだから、その場のノリでいけるだろ。」
「いけねぇよ…。」
「意外とヘタレなんだなーモロって。」
「う、うるせぇ!この話はもう終わりだ!」

終始ニヤついている荻野にイラっときた俺は、空になった弁当箱を鞄に乱暴に放り込む。
そして席を立ち、教室を後にする。
その時にチラッと横目で見た中瀬さんの笑顔は、いつも通り眩しかった。

***

あれから暫くして、ひょんなことから中瀬さんと一緒に昼飯を食べる機会がやってきた。
彼女が弁当も財布も忘れたらしい。
奢ると申し出たらえらく遠慮していたけど、俺にとっては願ってもないチャンス。
なんとか押し切って、一緒に学食にやってきた。

「あの…ありがとう。やっぱり申し訳ないから、何かお返ししたいんだけど。」

窓際の席についた中瀬さんからの申し出。

学食で一番安いメニュー代だけで中瀬さんと一緒に飯が食えるんだし、むしろこっちがもっと払うべきなんだけどな。

さすがにそうは言えないし、律儀な彼女は断っても納得しないだろう。
せっかくのこの時間、中瀬さんにも少しでも楽しんでもらいたいので、俺はその申し出を素直に受け入れることにした。

「ん?そうだなぁ…。」

ジュースでも奢ってもらうか?
もう一度、学食で一緒に飯でも…?

脳みそをフル回転させて、お返しをどうするか考える。
と、そこで荻野の『作ってって頼めば?』って言葉が頭をよぎった。

「…じゃあ、玉子焼き。」

手料理が食べたいと言われるとは思わなかったのだろう。
俺の言葉に、中瀬さんはひどく驚いた顔をした。
ちょっと困惑している様子もあって、さすがに無理かと少し後悔する。

「そんなのでいいの?…だったら、お弁当作ってこようか?玉子焼きもちゃんと入れるよ。」

予想に反して、中瀬さんはそれを了承してくれた。
『そんなので』って言うけど、俺にとってはどれだけ嬉しい事か懇切丁寧に説明してわかってもらいたい。
けど、それはもう告白してるも同然だ。
ぐっと堪えたが、それでも嬉しさが表情に出てしまった。
ちゃっかりと、また一緒に飯を食う約束も取り付けた。
そんな俺の様子に、なおも困惑している彼女。
変な奴だと思われたくなくて慌てて別の話に切り替えると、中瀬さんは笑顔を見せてくれた。
窓から差し込む日の光で、その彼女の姿はいつもより一層眩しかった。
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