ヒーロー.１

「ここ...どこだろう？」

小夜はうす暗い部屋に１人でいた。
そして、どうしてこうなったのか小夜は考えていた。


マリアと買い物をしていた小夜は買い物の途中、一人の女性から声を掛けられた。ポケモンセンターへの道が分からないから教えて欲しいと言われ場所を案内する事になったのだ。マリアは一緒に行くと言ったが、ウインドーショッピングを楽しんでいた様子を見た小夜はすぐ近くだからと断った。

２人でポケモンセンターへと向かっていた小夜だったが、相手が女性だからと油断していた。いや、油断していたというよりも危機管理が残念な程元から備わっていなかったのかもしれない。

もう少しでポケモンセンターへ着くという時にいきなり口を塞がれそのまま気が遠くなってしまったのである。



「あの後、どこかに連れて来られたのかな...」

殺風景な部屋を見渡しながら冷静にそんなことを考えていた。
そして、自分の持ち物を確認してみたがバックすら持っていなかった事に気が付いた。

『あの時、近くのベンチに置いて来ちゃったんだ...』

ということで小夜にはここから逃げ出す手段も、この場所を外へ伝える方法も持ち合わせていないという事だ。

「マリア達...心配してるだろうな...」


そんなことを考えているとギ～ッと鈍い音がして扉が開いた。

「あら、起きたのね～。まぁ、起きた所でどうすることも出来ないでしょうけど」

そう言いながら不敵に笑った人は道を尋ねて来た女性だった。

「あ、あの...なんで...。ここから出してください...」

「残念だけどね、あんたはここから出ることはないわよ。ここから出る時は売り手が決まった時ね」

「売り手...？」

「そうよ、あんたは今から売られるの」

「おい、ベラベラ喋り過ぎだぞ」


女性の後ろから出てきた男性は不機嫌そうな声で女性に声を掛けた。

「なによ～、別にここから逃げ出せる訳じゃないから大丈夫でしょ？」

「お前はもう少し緊張感を持て」

２人の事を小夜は観察をするように見ていた。そんな小夜の視線に気づいた男性がおもむろに近寄ってくると、いきなり平手打ちをしたのだ。

「気持ち悪い目だな、そんな目で見てんじゃねぇぞ」

平手打ちの勢いは強く、小夜は後ろへ弾かれていまい床に打ち付けられてしまった。

「ちょっと、大事な商品じゃないの？」

「これくらどぉってことない。行くぞ」

倒れた小夜には見向きをする事もなく２人は出ていった。





『痛い...』

足音が聞こえなくなった小夜は痛みと同時に“昔の感覚”を思い出していた。


暗い部屋、非情な暴力、心無い言葉、自分を見下ろす瞳


この世界に来て無縁だと、もうあんな思いをすることはないと、そう思い込んでいた自分が嫌になった。


『結局...わたしは１人ぼっちなんだ...』


冷たいコンクリートの床の触感がこれが現実だと思わせる中、何かの足音が聞こえて来た。

『この足音...』

そして、その足音達が大きくなった時大きな音がしたかと思えば、扉が壊され、先程の２人が勢いよく飛んできており壁に叩きつけられた。そして、光が差し込む煙の中には彼等がいた。


女でも手加減しないわよ

死ぬ準備出来てる？

姫を傷付けた代償は大きいぞ

覚悟は出来ているか

お前達は絶対に傷つけてはいけない人を傷つけた

てめぇら...命は無いと思えよ！


小夜には聞こえていた。自分を大切にしてくれる言葉が。

しかし、目の前の２人にはこう見えているだろう。怒りを露わにした６匹のポケモンが自分たちに襲い掛かってきそうな勢いで唸っていると。


意識が遠のいていく中小夜には自分を守るように立つ６人の後ろ姿が見えた。その背中はとても暖かく見えた。