黄昏時の一時
「アギナ様」
「あぁー?」
「少しお話が、そのままで構いません。」
龍の国の黄昏時、城内や宮廷内では見張りの交代が行われている。ソルジャー隊第七番隊隊長、サイナスがある男に話しかける。
男は浅黒い褐色の肌と二メートルを超える巨漢。分厚い筋肉に覆わせた身体に重量感を覚える。ソルジャー隊の頂点にしてこの国の王の傍らに立つ存在が、自身のドラゴンの背中で寛いでいた。この時間になるとこのように職務を怠ける。
サイナスはさぼり癖の抜けない上司を見上げ、相手の反応を見る。
「なんだよ。」
そのままで構わないと言われた通り、ドラゴンから降りる気もないアギナが面倒くさげに聞き返す。翼を動かし、ゆるりと浮遊するドラゴンを見やる、アギナが眺める夕日に目を移して尋ねた。
「アギナ様は、ご自身の両親を覚えていらっしゃいますか?」
「あぁ?なんだ急に。」
「突然申し訳ございません。差支えなければ、お願いします。」
「・・・はぁー。親なぁ。」
当然いつものように報告や小言を聞かされるのだと思ったアギナが拍子抜ける。両親。普段考えない事だけに、両親紹介に必要な内容を少し間を使って用意した。
「母親は俺と同じソルジャーだった、らしい。俺を生んですぐに殉職した。だから母親のことは何も知らねぇな。」
「・・・・」
「父親はドラグナーだった。ドラゴン育てて、調教して売って商売してたな。俺もオヤジと同じドラグナーになるのを夢見始めた時に、ドラゴンに殺されちまった。」
「ドラグナーが・・ドラゴンに?」
「ああ。凶暴になった野生のドラゴンをどうにかしろと言われて行ってみれば、何の役にも立たずにあっさり食われたとさ。」
「そうでしたか・・。」
「だから、そうだな。この歳になって思い返してみれば、父親のこともあんま覚えてねぇな。」
「・・聞かせてくださってありがとうございました。・・辛い事を話させてしまい、」
「別に辛くなんてねぇよ。俺には親父が残したドラゴンがいたし。母親から受け継いだ血で今アステカの隣に居られる。自分が不幸だなんて思ってねぇよ。」
「・・・」
破顔して気分よく話すアギナが、自身のドラゴンの背を親しげに撫でる。サイナスが何故両親の事が気になったのかはさておき、アギナは世間話しをする。
怠け者でもあるが、人付き合いが好きなのもアギナだった。
「で?お前は孤児だったな。自分が不幸だと思うか?」
「・・・いいえ。」
「そうかよ。」
「失礼いたしました。アギナ様も、そろそろ職務にお戻りください。」
黄昏時が終わる。時間にして、そう長いことではなかった。それでもサイナスにとっては充実とした時間に感じた。
一礼をして持ち場に戻る姿を見やったアギナは、ドラゴンから降りて自分も職務に戻っていった。
「あぁー?」
「少しお話が、そのままで構いません。」
龍の国の黄昏時、城内や宮廷内では見張りの交代が行われている。ソルジャー隊第七番隊隊長、サイナスがある男に話しかける。
男は浅黒い褐色の肌と二メートルを超える巨漢。分厚い筋肉に覆わせた身体に重量感を覚える。ソルジャー隊の頂点にしてこの国の王の傍らに立つ存在が、自身のドラゴンの背中で寛いでいた。この時間になるとこのように職務を怠ける。
サイナスはさぼり癖の抜けない上司を見上げ、相手の反応を見る。
「なんだよ。」
そのままで構わないと言われた通り、ドラゴンから降りる気もないアギナが面倒くさげに聞き返す。翼を動かし、ゆるりと浮遊するドラゴンを見やる、アギナが眺める夕日に目を移して尋ねた。
「アギナ様は、ご自身の両親を覚えていらっしゃいますか?」
「あぁ?なんだ急に。」
「突然申し訳ございません。差支えなければ、お願いします。」
「・・・はぁー。親なぁ。」
当然いつものように報告や小言を聞かされるのだと思ったアギナが拍子抜ける。両親。普段考えない事だけに、両親紹介に必要な内容を少し間を使って用意した。
「母親は俺と同じソルジャーだった、らしい。俺を生んですぐに殉職した。だから母親のことは何も知らねぇな。」
「・・・・」
「父親はドラグナーだった。ドラゴン育てて、調教して売って商売してたな。俺もオヤジと同じドラグナーになるのを夢見始めた時に、ドラゴンに殺されちまった。」
「ドラグナーが・・ドラゴンに?」
「ああ。凶暴になった野生のドラゴンをどうにかしろと言われて行ってみれば、何の役にも立たずにあっさり食われたとさ。」
「そうでしたか・・。」
「だから、そうだな。この歳になって思い返してみれば、父親のこともあんま覚えてねぇな。」
「・・聞かせてくださってありがとうございました。・・辛い事を話させてしまい、」
「別に辛くなんてねぇよ。俺には親父が残したドラゴンがいたし。母親から受け継いだ血で今アステカの隣に居られる。自分が不幸だなんて思ってねぇよ。」
「・・・」
破顔して気分よく話すアギナが、自身のドラゴンの背を親しげに撫でる。サイナスが何故両親の事が気になったのかはさておき、アギナは世間話しをする。
怠け者でもあるが、人付き合いが好きなのもアギナだった。
「で?お前は孤児だったな。自分が不幸だと思うか?」
「・・・いいえ。」
「そうかよ。」
「失礼いたしました。アギナ様も、そろそろ職務にお戻りください。」
黄昏時が終わる。時間にして、そう長いことではなかった。それでもサイナスにとっては充実とした時間に感じた。
一礼をして持ち場に戻る姿を見やったアギナは、ドラゴンから降りて自分も職務に戻っていった。
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