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ハヤブサの憧れ

夕暮れ時。太陽が落ちる間際。空を染める真紅の色が、不気味に揺らぐ。良くないことが起こりそう。そんな予兆を勘ぐらされる嫌な気持ちにさせられる。
隼は大きな木に登り、身を隠し、息を殺していた。

「それで、…都はいつ頃…」
「そう長くは…。今はこの辺り…、明日…。」

場所は昼間いた野営地から王都へ続く山道。目標だった防壁まではまだかなりある。周りには姿を見られぬよう、葉に紛れて移動した。山道をすぐにでも抜けたいのだが、敵と思われる龍人の姿を目にし、足止めされていた。
一向に移動する気配の無い龍人が三人。その龍人が道を塞いでいる。彼らを避けて迂回するにも、見つかってしまいそうで一歩も動けずにいた。

(どうしよう…。これじゃあ王都へ帰れない…)

夕焼け空を見上げて不安になる。これ以上ここにいても、日が暮れてしまう。そうなれば、もうここから移動出来なくなる。流石の隼も、日が落ちた暗闇を進む勇気は無い。引き返すべきだ。と思うも、龍人の会話がどうにも気になった。ここにいても危険だとは思ったが、見つからなければ、と言う好奇心が勝ってしまう。
彼らの話しを聞ければ、目的や作戦を得られるかもしれない。きっとこのまま戻っても、父や烏炎からの説教が待っている。何かしらの有益な情報を持ち帰れば、許してもらえるかもしれない。
静かに木から地面に降り、隠れられそうな茂みに移動する。物音を立てないよう慎重に近づくと、今度は龍人の会話がはっきりと聞こえた。

「これがうまくいったら、“俺たちの国”ができるわけだ。」
「あの方々は、あの国を俺たちにくださると言っていた。」
「ああ、俺たちは、俺たちの“楽園”を取り戻す。」
「“ここ”が俺たちの物になったら、鳥人共はどうするんだろうな。」
「焼いて食っちまおうぜ。そのままでも美味いかもな。」
「血が美味そうだ。」
「ああ、特に女は。」
「全鳥人が俺たちの奴隷だな。」
「まずは…鳥王とその王家の連中を公開処刑。」

龍人達の下品な笑い声が上がる。
興味本位で聞いてしまうには、あまりにも恐ろしい内容だった。ここにきて漸く、今回の戦い、ないし、今自分が置かれている事の危険さを感じ取った。まだ十一になったばかりの隼でも、先ほどの会話が如何に悪に満ちているか分かる。彼らが自分の国を攻撃する目的も、自分の家族をどうしようとしているのかも。身の毛もよだつ恐怖が、幼い身体を走った。

(ここにいちゃダメだ…! 早くここから逃げなきゃ…!)

小さく震える足を必死に動かし、隼が中腰で一歩後ろにさがった。その時、ガサリと大きな音が鳴る。迂闊にも、腰に備えていた剣が茂みにひっかかってしまった。おまけに、しまったと高い声を上げてしまった。元々耳の良い龍人に見逃してもらえる筈もない。

「ん!?」
「なんだ?」
「誰だ!!」

龍人の一人と目を合わせてしまった隼は、背を向けて一目散に走った。
今彼らに捕まってしまったら、何をされるか分からない。どうなるか分からない。敵は三人。戦って勝てる自信は、実を言うと少しも無い。訓練は受けたと、父には胸を張って言った。しかし、父の言うとおり、所詮は訓練。戦いに命を懸けたことも、命を奪いにくる敵から自分を守る為に戦った経験さへ、隼にはまだ無かった。

「鳥人か‥!?」
「鳥人のガキだ!!」
「話を聞かれたかもな…」
「殺すか?」
「いや、生け捕り。ガキと女程役に立つ物はない。」

龍人達の凶悪な金の目が血走る。彼らは一斉に隼を追い始めた。


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