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ハヤブサの憧れ

龍人がここを攻めてくる。
ソルジャーとワルキューレが行き交い慌ただしい中、どこにも水色の髪と翼が見当たらない。昼間までは確かに姿はあったはずだ。

「隼!隼!」

幾度も声を張り上げるが、駆け寄ってくる姿すらない。こんな非常時に、どこに行った。だから連れてきたくなどなかったのだ。再び呼ぼうとしたとき、ワルキューレ兵が一人呼びかけに応えた。赤い髪が羽梟の目下で跪いた。

「王!!」

見れば、隼の護衛に付けていた烏炎だった。戦支度の緊急性は周知されているはずだ。彼に付いているとばかり思っていた隼の姿がやはり無い。

「隼はどうした!」
「それが、…昼過ぎにここを出て王都へ向かったようです…書き置きがありました…」
「何だと!?俺は“明日”帰れと言ったんだぞ!」
「はっ、私も、本人はそのつもりでいるとばかり…目を離した隙に…、申し訳ございません!側付きを任されておきながら、ご子息を危険に」
「あんの糞餓鬼が!!どうしようもねぇ馬鹿だ!!てめぇはとっととワイバーンに乗りやがれ!!」
「は……は!、し、しかし、ご子息が・・!私が責任をもって探します・・!」
「お前も俺の命令はきけねぇってか?あ?!」

馬鹿息子の身勝手さに、羽梟は呆れかえる。何故勝手な行動ばかりをとりたがるのか。苛立ちの火に油を注がれた気分だった。一人で昼過ぎにここを出たのならば、そう遠くまでは行ってはいないだろう。しかし、悠長に探している時間も無い。
隼の身に何もなければ、今頃は防壁付近だ。だが、防壁に到達できていたとしても、怪鳥に乗り越えなければ都には入れない。立ち往生したまま龍人とドラゴンと鉢合わせれば、隼が生存できる確率は極めて低くなる。もしかすると、もう。

「くそ…。」

全てのワイバーンを飛びたたせる準備が整った。一国の王として、選び取らなければならない瞬間がやはり苦しい。動きの悪い烏炎を引っ掴んで自分もワイバーンに乗り込もうとするも、ほったらかしにされているアギナが声を上げた。

「おい待て鳥王!!俺への指示忘れてんじゃねよ!」
「何してやがる、貴様もさっさと乗れ!!」
「ヘイヘイ…こっちも人使い荒いぜ…」

アギナも羽梟のワイバーンに飛び乗るが、羽梟の状況に彼の軽い口調が空を突いた。

「何ならあんたのガキ、俺が保護しに行ってやろうか?」
「何、だと…?」

ワイバーンが地上から上空へと羽ばたく最中。アギナからの唐突な提案に羽梟は驚いた。

「何驚いてんだよ。どうせあんたは軍の指揮を取らなきゃならない。探しに行きたくても行けねんだろ鳥王さんよ。」
「………。」
「“こういう時”こそ俺を使え。なに、俺んとこの兵隊は唯の働き蟻じゃねぇ。俺が居なくてもきっちり“鳥”に勝ちを取らせるさ。」

アギナの言うとおり、“探しに行けなくとも行けない”は図星だ。
いくら実の子の危機とは言え、軍の先頭を離れる訳にはいかない。攻撃されている王都に急がなければならないのだ。獣の陣が崩されるのも時間の問題。一国の王として、国の未来に責任がある。例え家族を犠牲にしたとしても。

「あんたが命令さえすればいい。“こういう時”の為に、“俺”がいる。好きに使えよ。今の俺にはあんたの命令は、アステカの命令も同然だ。」

ソルジャー隊隊長のサイナスの指示通り、乗せれるだけのソルジャーをワイバーンに同乗させた。数はさほど多くは無い。小隊がいくつか組める程度だ。だがアギナの言葉を信じるのならば、その人数だけどもこちらに利がある。
隼の事は、今は王の柱に頼るしか無いだろう。隼にもしもの事があれば、母親の雀が悲しむだけでは終わらないだろう。

「……できるのか?」
「ああ、俺にだって考えがある。自分のドラゴンで単独行動取らせてもらえばな。どうだ?」
「いいだろう。…息子を、頼む。」
「了解。」

それだけ言うと、気分の良い顔を向けて軽快にワイバーンから飛び降りる。アギナは元居た土を踏みつけると、鳴らない竜笛を吹いた。


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