ハヤブサの憧れ
「………。あの少年はいくつなんだ?」
「十一になったばかりだ。たしか。」
「(十一…隼と同じ歳か…)」
普段、他人の歳など気にも留めないのだが、不意に気になりアギナに尋ねる。十一と言う歳に引っかかるのは、数時間前に突き返した息子のことだ。子ども相手に言い過ぎたかもしれない。どうにも接し方が下手である、と言う自覚はあった。
そんな折り、野営地からワルキューレ兵が2人、血相を変えて走ってきた。傅く兵の気を張った声が、何か良からぬ事が起こったと悟る。
「王…!!ワイバーンでの探索隊の報告によると、北東から龍人が乗る走竜の群れがここに接近中!!ワルキューレ、戦闘準備は既に完了しています、王!ご指示を!」
「続いて、王都にも龍人が接近!攻撃を受けているとのことです・・!現在、弓兵と獣の国からの援軍で応戦中!敵の数・・推定三百・・!少数ですが、その・・防壁を突破された模様です!」
告げられる報告に、羽梟の舌が鳴る。悠長に構える余裕などない。事は一刻も争う事態だった。龍人からの攻撃は度々起きてはいたが、今までは国境付近までだった。
援軍で来たソルジャー隊には、襲撃される箇所や国境の警備に付いてもらう予定でいた。まさか、数ある野営地の中でも、ソルジャー隊と合流する此処を狙われ、更に自分の不在時に王都を直接攻められるとは、不覚にも勘定には入れていなかった。
そして、こちらの動きがどうやら敵に筒抜けている。そんな節を感じた。。
「ちっ、厄介なやつらだ。此処は捨てる!!ワルキューレは全員ワイバーンに乗り王都に急行!援軍に回れ!!他の野営地へも、そう伝鳥を飛ばせ!!」
「はっ!!」
羽梟の命令がワルキューレ兵を走らせる。
苛立つ羽梟の眉間に皺が深まる。王都を守備する要塞防壁があるのだが、龍人と言えど簡単に越えられる代物では無い。飛竜にでも乗らなければ、越えられるはずがない。
「おい、奴らも飛竜を操れるのか」
「いや・・。飛竜はドラゴンの中でも高位だ。奴らが扱えるもんじゃない。」
「くそったれが。」
アギナに問いただすも、訝しげにその可能性は無いと返ってきた。
では、どうやって侵入してきた。疑問は晴れないが、推察に頭を使っている暇は無い。直ぐに援軍として来たソルジャーに対する命令を下した。
「ソルジャー隊はここで、ドラゴンと龍人を撃退、食い止めるか追い返すか殺すかしろ!!!後でそのまま王都まで加勢に来い!!」
羽梟がたった先ほどソルジャー軍の隊長となった少年に言い渡す。苛々と怒声ある命令に、少年は頷きながらも冷静に口を開いた。
「承知いたしました。敵のドラゴンはこちら側の戦力として回収致します。それと、恐れながら、そちらのワイバーンに可能な数だけ、こちらのソルジャーを数十名同乗させてください。私に考えがあります。」
考えがある。と提言する少年を見入る。確かな才より来たる自信が、その幼い龍眼から読み取れた。龍王アステカに目を掛けられるだけの事はある。こいつは、将来化けるぞ。
ひとまずはこの少年を信じることとした。何より時間が惜しい。
「いいだろう。好きにしろ。」
「は。」
少年はソルジャーに数々の指示を出して戦闘準備に取り掛かった。その状況判断能力と迅速な対応の質の高さを買った。この場は幼い隊長に任せてもいいだろう。そうして自分もワイバーンに乗り込み、指揮を執る為に野営地に駆けいった時、はたと我に帰った。
「隼…?」
野営地で待機していたはずの息子の姿が、どこにも無かった。