ハヤブサの憧れ
隼は肩を落としてとぼとぼと野営地に向かう。落ち込んではいるが、隼の気を取り直す速さは誰よりも早い。ある意味で、それは一種の才能と賞せる域だった。
「僕は、役立たずなのかも。でも!父上が初めて戦争に行ったのは僕よりもずっと幼い時だったって聞いたし。僕だって何かやれることがあるさ!」
自分にも何か役に立てることがあるはず。と直ぐに前を向く。実戦は初めての経験だが、充分な訓練はしっかり受けたつもりだ。意気揚々と野営地に戻る隼の帰りを待つ人物がいる。腕を組んで佇んでいる人物は、隼とはさほど歳が変わらないように見受けられる。しかし、年上であることは明らかだろう。赤の翼を持つ少年だ。その鋭い目元は、どこか鳥王のものと似ている。
「隼。王には会えたか。」
「はい烏(ウー)さん。…でも、」
「差し詰め、王都へ戻れと言われたんだろ。」
少年の名を、烏炎(ウーヤン)と言う。羽梟の命令で隼の付き人兼護衛兼世話係に付いており、駆け出しの王族護衛兵でもある。若いが有能で、貧民街から鳥王に引き抜かれた人物だ。
「そうなんです。どうしてでしょうか…」
「馬鹿かお前。だから俺は反対しただろが。お前が言うことを聞かないから仕方なく連れてきてやったんだぞ。どうせ後でお咎めを受けるのは俺だ。分かってんだろうな。あ?」
「す、すみません。でもどうしても来たかったんです…!父上の役に立ちたくて…。」
「…。王に言われた通り、明日には王都に帰るぞ。いいな。」
「でも」
「いい加減にしろよ隼。」
「は、はい・・分かりました。」
烏炎の憤怒の形相に、縮こまる隼。世話係を全うせんとする烏炎は、鳥王の子であろうと容赦しなかった。彼の気質もそうだが、教育を施す暇も作れない己に代わって躾けろと言う羽梟の意向が大きいだろう。納得はしていなかった隼だが、父や烏炎に逆らう気概は生まれなかった。明日、王都に帰る。そう決めるも、意気込んでここまで来た手前、一刻も早くこの場から立ち退きたいと逸らせる。
「(夜には、王都へ帰ろう。)」
時刻は昼すぎ。
野営地で食事を済ませてから、王都に向かうことにした。自分がここにいる意味が無いのなら、さっさと帰って父を安心させよう。
そう思い立った隼は、烏炎が目を離した隙に、書き置きだけ残してそっと王都に向かう。太陽が夕日色に染まる前に隼は野営地を後にした。
だが、それが善行であったかなど、言うまでもない。
王都に帰ると言っても、隼にはその方向も、距離も、子どもが夜一人で行動する危険さも、何一つ理解していなかった。
「僕は、役立たずなのかも。でも!父上が初めて戦争に行ったのは僕よりもずっと幼い時だったって聞いたし。僕だって何かやれることがあるさ!」
自分にも何か役に立てることがあるはず。と直ぐに前を向く。実戦は初めての経験だが、充分な訓練はしっかり受けたつもりだ。意気揚々と野営地に戻る隼の帰りを待つ人物がいる。腕を組んで佇んでいる人物は、隼とはさほど歳が変わらないように見受けられる。しかし、年上であることは明らかだろう。赤の翼を持つ少年だ。その鋭い目元は、どこか鳥王のものと似ている。
「隼。王には会えたか。」
「はい烏(ウー)さん。…でも、」
「差し詰め、王都へ戻れと言われたんだろ。」
少年の名を、烏炎(ウーヤン)と言う。羽梟の命令で隼の付き人兼護衛兼世話係に付いており、駆け出しの王族護衛兵でもある。若いが有能で、貧民街から鳥王に引き抜かれた人物だ。
「そうなんです。どうしてでしょうか…」
「馬鹿かお前。だから俺は反対しただろが。お前が言うことを聞かないから仕方なく連れてきてやったんだぞ。どうせ後でお咎めを受けるのは俺だ。分かってんだろうな。あ?」
「す、すみません。でもどうしても来たかったんです…!父上の役に立ちたくて…。」
「…。王に言われた通り、明日には王都に帰るぞ。いいな。」
「でも」
「いい加減にしろよ隼。」
「は、はい・・分かりました。」
烏炎の憤怒の形相に、縮こまる隼。世話係を全うせんとする烏炎は、鳥王の子であろうと容赦しなかった。彼の気質もそうだが、教育を施す暇も作れない己に代わって躾けろと言う羽梟の意向が大きいだろう。納得はしていなかった隼だが、父や烏炎に逆らう気概は生まれなかった。明日、王都に帰る。そう決めるも、意気込んでここまで来た手前、一刻も早くこの場から立ち退きたいと逸らせる。
「(夜には、王都へ帰ろう。)」
時刻は昼すぎ。
野営地で食事を済ませてから、王都に向かうことにした。自分がここにいる意味が無いのなら、さっさと帰って父を安心させよう。
そう思い立った隼は、烏炎が目を離した隙に、書き置きだけ残してそっと王都に向かう。太陽が夕日色に染まる前に隼は野営地を後にした。
だが、それが善行であったかなど、言うまでもない。
王都に帰ると言っても、隼にはその方向も、距離も、子どもが夜一人で行動する危険さも、何一つ理解していなかった。