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ハヤブサの憧れ


「でぇ"兄弟"。会えて嬉しくもないがどうするよ。“俺”を知らない程下っ端か?」
「………っ。」

胸の前で両の拳をバキバキと鳴らして挑発する。まるで準備運動をするように足首を回したり首を回したり肩を回したり。隼と烏炎を背に軽く体をほぐす男。この場で余裕を見せながら相手に近づいていく。

龍人にとってソルジャーであると言う男の登場は、予期せぬ出来事だったのだろう。臆した様子で後ずさる。男を睨んではいるが、確実に気負けしている。あの龍人にとって、あの男はそれ程分が悪い相手なのだろうか。

「さっきので片腕が逝っただろ。大人しく"森"に帰るってんなら見逃してやってもいいぜ?」
「………。」
「何とか言え。また殴られたいか?」

男が"森"と言った時、烏炎は重苦しい空気が流れたのを感じた。龍人は、最初こそ退いていたが、その言葉を聞いた途端、男の"挑発"に"殺意"を持って一歩踏み出した。
烏炎からははっきりと分かった。顔つきがまるで違う。間違いなく何かが龍人に火をつけた。距離のある隼には何も分からなかった。

隼を背に前方を警戒しながら一歩一歩男に近づく龍人を見る。ゴキゴキと音を鳴らせ外れた肩と腕の骨を入れ直す。激痛に顔を歪めたが、直ぐに表情を元に戻した。
その様を見て、烏炎は背筋を凍させた。龍人の表情。そこに強烈な"殺意"が宿っている。狂おしい程の敵意、絶対に殺してやると言う憎悪。それが男に向けられている。

「殺してやる。」

狂乱に満ちた金の中の赤い瞳が、月明かりの下に不気味に色を増していた。

「殺してやる!!!!!!!!」

憎しみを孕んだ龍人の怒り。その咆哮に、別の二人の龍人が加勢をするように龍人の両脇に寄り添った。隼を追っていた龍人。隼を三手に分かれて探していた残りだ。

「俺達三人も相手で余裕でいられるか!?ソルジャー!!」

戦闘体勢を素早く取る龍人三人。それぞれが音を鳴らせて手の爪を伸ばした。

「貴様を"森"送りにしてやる!!!」
「ありがとよ、まとめて片付けられて好都合だ。」
「なめやがって!!」
「ヤルぞ!!!」
「おう!!!」

三人の龍人が男に襲い掛かる。声が聞こえた隼は、その場に動けぬまま体を震わせた。あの龍人が三人も襲ってくると。
烏炎も刀を握る手を湿らせた。もし、男が敵にやられたら。もし、敵がこちらに向かってきたら。隼を守りきれるだろうか。男と敵が接触する刹那に、覚悟を決める。己が例え死んでも、あの男だけでも生きていれば隼は生きれる可能性がある。
翼を広げ、刀を構え、男の後ろで歯を食いしばった。
そんな、こんな緊迫した空気の中で、男は大きなため息をついた。

「本当にお前らは、“俺”を知らない下っ端かよ。萎えるぜ。」

拳を構えて龍人三人を迎える男は、落胆し残念そうにそう零した。それを聞き逃さなかった烏炎は、目を見開いて刀の握りを緩めた。この男が強いとは聞き知っていた。だが、これほどまでの強さがあるのだろうかと、一触即発の光景の数秒後を見て唖然とした。戦闘が、戦闘にならなかった。なっていなかった。

男は三人がかりの攻撃をもろともせず、戦闘を数分もかけずに終わらせていた。

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