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ハヤブサの憧れ

15

隼が死を前に目を閉じたその一瞬。鈍い音が弾けた。何かがへし折れるような音と、悲鳴。痛みにあがる悲鳴が聞こえた。隼の骨が折れたのではない。隼が悲鳴をあげたのではない。振り下ろされた爪は、隼には届いてはいなかった。

「・・・?」

強く瞑った瞼をそろりと開けると、目の前まで迫っていた龍人が遠く見えた。何者かが、隼と龍人の間に距離を作ったのだろう。襲ってきた龍人が腕を庇って怯んでいるのが分かる。何が起こったのだろうと目を凝らすも、ぼんやりとでしか状況が把握できない。

「隼!!無事か!?」

夜のせいで視界が悪い。負傷した龍人の影と、それとは別の大きな人影。隼が大きな人影を不思議に思った時、隼の目の前にまた別の誰かが現れた。翼を広げて降り立った鳥人。血相を変えて隼に駆け寄ってきた。視界が悪くとも、これほど近くであれば顔が分かった。よく知った。数時間前に別れた人物、烏炎だ。自分を探してくれたのだと、来てくれたのだと、涙がこぼれた。

「うー、やん、さっ」
「よかった・・」

崩れた体勢の身体に腕が回された。てっきり怒鳴り散らされて叱られるものだとばかり思っていたため、相手の表情に驚く。不安から解き放たれた安堵と、心配に耐えた目元が潤んでいる。小さく、ゆっくり吐き出された声は、少しだけ震えたようだった。

「説教は後だ、俺の後ろから動くなよ。」

はいと、離れて刀を抜き、自分を守護する烏炎の背に返した。烏炎の向こう側、暗闇で対峙している二つの人影が動く。

「そ、ソルジャーっ…!!?何故、ソルジャーが…!?バカな、そんなバカな!」

だらりと折れた腕を垂らしながら、立ち上がる龍人が狼狽える。隼を襲った龍人の影よりも大きなもう一人の影が、愉快そうに笑った。聞きなれない、ソルジャーと言う単語に疑問を抱いた時、先程の笑い声が一変した。

「ああ?バカはどっちだこの野郎。誰のおかげでこんな所まで仕事させられに来たと思ってんだ!!」

大きな人影の声は、苛々と怒る低い男性の声だった。距離があるにも関わらず、隼の鼓膜を震わせる。

きっと、助けてくれた人だと、よく見たくて身体を起こそうとした。だが、痛めた翼の付け根が痛み、それは叶わなかった。

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