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ハヤブサの憧れ

一瞬、隼の脳裏に良くない記憶が覗いた。

『龍は鳥に首輪をつけ、鳥は龍に脅え生く。』


隼は軍の養成学校で鳥人の歴史を学んだ。鳥人の歴史。どんなに凄い歴史があったのだろうと、子供の希望に溢れた期待を膨らませていた。しかし、その内容は全く想像したものとは異なるものだった。

元々鳥人の先祖は龍人に服従し、使役されていたと言う事実。彼らからしてみれば、鳥人はただの使用人であり、奴隷であり、良き道具だった。その扱いに耐えかねた鳥人の祖先が、今の地に逃げのび国を築き独立した。それが凡そ八百年ほど前だ。龍人の支配から逃れ、自由を手にし、尊厳と誇りを取り戻した。

しかし、独立してからが鳥人にとって、真の苦難の始まりだった。
自分達の手から離れた鳥に対して、龍は執拗に攻めいったのだった。強大な龍に対し、幾度となく危機に陥った。滅亡の危機、再び訪れる隷属の屈辱。だが鳥は常に龍を追い返し、生き残ってきた。その度に強く、成長していった。

独自に大成した剣術や体術。それらを会得した、対龍人戦闘部隊であるワルキューレ軍の確立。龍に対抗する術を得ていった鳥だったが、どうしても埋められない根本的な差があった。

それが身体構造の違い。
体格も筋肉量も体力も視覚聴覚の五感に至まで、全てにおいて龍人が勝っている。鳥人の特権と言えば、翼で“少々飛べる”くらいなのだ。
身体能力の絶対的な差。これだけが、どう足掻いても覆せない龍人との差だった。

それでも、その壁を乗り越えた鳥人がいた。それが隼の父親、鳥王羽梟だった。龍人と同格に戦うことのできる羽梟の登場。それは鳥の歴史に置いてこれまでに無い転機となった。
一戦で龍を翻弄したのも羽梟。龍の進行を押し返したのも羽梟。鳥の国に安泰をもたらしたのも羽梟。

二十年ほど前まで、鳥の国は戦争に重きを置いた国だった。その国を、たったの二十年で、脈々と続いた国の質を一変させた。息子の隼は、自然に父親への敬愛を募らせ、父の背を見て育つようになった。父のように、いつか自分も国を守れるようになりたい。軍に志願し、歳に合わない訓練を受けた。そして、人知れず自信に満ちていた。父の役にたつことは、国の為になる。少しでも父に近づける。隼はそんな風に胸を膨らませていた。

それでも、現実は子どもの夢を容易く摘みとりにくる。
歴史は知っていても、“龍人”のことを隼は何も知らなかった。戦う敵の力も、その凶暴さも、残虐さも。何一つ。
刀を嘲笑うように破壊した龍人の爪。命を快楽の為に奪う暴力が隼に振り下ろされた。




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