ハヤブサの憧れ
「よぉ、もう逃げないのか?」
龍人は城壁から這い出て、楽しそうにゆっくりと隼に近づいてくる。隼は怯えて後ずさると、震える手で腰に装備していた刀を握り締めた。相手はまだ一人だ。一対一。ほんの少しでも運があれば、逃げられるかもしれない。そう覚悟を決めて刀を鞘から抜いた。情けないほどに、白銀の刀身が震えた。
「そんなガラクタが役に立つとでも?やってみるか?」
「!?」
月を背に、龍人の筋肉質な太いその手が空へと向けられる。すると、ゴキゴキと生々しい骨の折れるような音とともに、手が肥大化した。自分の体ごと握り潰せそうなほどに巨大化した手。その指先からは、大きな爪が伸びた。
剣のような、鎌のような。とてつもない不気味なもの。龍人は隼よりもずっと大きい。それに加えて凶器の爪。とてもではないが、手に握る刀では対抗すらできそうにない。隼を圧倒するには十分な変貌だった。
「鳥を見ただけで腹が減ってくる…俺たちはな、大好きなんだよ。血が、肉が。骨をしゃぶるのが…お前は、どんな味がするんだ?なぁ!小鳥!!」
「ひっ!!」
舌なめずりをしながら爪を振り下ろす龍人。先手の攻撃に隼はかろうじて攻撃を避けたが、次の一撃は避けきれない。すでに逆の手が隼に迫っていた。咄嗟に刀を盾にして、身を守ろうと防御を構えた。しかし、その脆さはどうしようもない事実だった。
「ぇ。」
「だから言っただろ?そんなのはガラクタだってよ。」
下からの攻撃を、防御したつもりだった。だが、どうだろう。高い破壊音と共に刀が砕けた。いとも簡単に、本当にガラクタ同然だったのだ。その衝撃は凄まじく、反動を受けた隼の身体はそのまま後方へと飛ばされた。
一瞬何が起きたのか分からなかった。だが、城壁に上体を強打し、痛みに呼吸を止めながら悟った。初めから敵う相手ではなかったのだと、混乱と恐怖渦巻く心がそう叫んだ。自分の失態で追われてしまったあの瞬間から、こうなる未来は決まっていたのだろう。
こんな敵と、父はずっと戦ってきたというのだろうか。どうやって、こんなに恐ろしく、強い敵と。
「う、…ぅ。」
「さよならだ、小鳥。追いかけっこに隠れんぼ、タノシカッタゼ」
動けぬまま城壁に背を力なく預けた。目に飛び込むのは、金眼の中の赤。赤い赤い瞳。間近で見たその赤に、残忍な捕食者の狂気が見える。そのあまりの恐ろしさにギュッと目を瞑った。
あの時、父や烏炎の言うことをきいて、明日まで大人しくしておけばよかった。こんなに早く自分の人生が終わってしまうなんて。涙を浮かべて、為す術もなく捕食者の餌食となる。
あまりに情けなかったが、どうすることも出来なかった。ただ、父や母や世話になった人達に、静かに謝罪とさよならを心が言った。
龍人は城壁から這い出て、楽しそうにゆっくりと隼に近づいてくる。隼は怯えて後ずさると、震える手で腰に装備していた刀を握り締めた。相手はまだ一人だ。一対一。ほんの少しでも運があれば、逃げられるかもしれない。そう覚悟を決めて刀を鞘から抜いた。情けないほどに、白銀の刀身が震えた。
「そんなガラクタが役に立つとでも?やってみるか?」
「!?」
月を背に、龍人の筋肉質な太いその手が空へと向けられる。すると、ゴキゴキと生々しい骨の折れるような音とともに、手が肥大化した。自分の体ごと握り潰せそうなほどに巨大化した手。その指先からは、大きな爪が伸びた。
剣のような、鎌のような。とてつもない不気味なもの。龍人は隼よりもずっと大きい。それに加えて凶器の爪。とてもではないが、手に握る刀では対抗すらできそうにない。隼を圧倒するには十分な変貌だった。
「鳥を見ただけで腹が減ってくる…俺たちはな、大好きなんだよ。血が、肉が。骨をしゃぶるのが…お前は、どんな味がするんだ?なぁ!小鳥!!」
「ひっ!!」
舌なめずりをしながら爪を振り下ろす龍人。先手の攻撃に隼はかろうじて攻撃を避けたが、次の一撃は避けきれない。すでに逆の手が隼に迫っていた。咄嗟に刀を盾にして、身を守ろうと防御を構えた。しかし、その脆さはどうしようもない事実だった。
「ぇ。」
「だから言っただろ?そんなのはガラクタだってよ。」
下からの攻撃を、防御したつもりだった。だが、どうだろう。高い破壊音と共に刀が砕けた。いとも簡単に、本当にガラクタ同然だったのだ。その衝撃は凄まじく、反動を受けた隼の身体はそのまま後方へと飛ばされた。
一瞬何が起きたのか分からなかった。だが、城壁に上体を強打し、痛みに呼吸を止めながら悟った。初めから敵う相手ではなかったのだと、混乱と恐怖渦巻く心がそう叫んだ。自分の失態で追われてしまったあの瞬間から、こうなる未来は決まっていたのだろう。
こんな敵と、父はずっと戦ってきたというのだろうか。どうやって、こんなに恐ろしく、強い敵と。
「う、…ぅ。」
「さよならだ、小鳥。追いかけっこに隠れんぼ、タノシカッタゼ」
動けぬまま城壁に背を力なく預けた。目に飛び込むのは、金眼の中の赤。赤い赤い瞳。間近で見たその赤に、残忍な捕食者の狂気が見える。そのあまりの恐ろしさにギュッと目を瞑った。
あの時、父や烏炎の言うことをきいて、明日まで大人しくしておけばよかった。こんなに早く自分の人生が終わってしまうなんて。涙を浮かべて、為す術もなく捕食者の餌食となる。
あまりに情けなかったが、どうすることも出来なかった。ただ、父や母や世話になった人達に、静かに謝罪とさよならを心が言った。