ハヤブサの憧れ
もうすっかり月も登ってしまった。
隼はずっと逃げまわったおかげで荒い呼吸が治まらない。漸くたどり着いた古城。古びた外見だが、石階段等はしっかりとしていた。周りが見渡せて、即座に逃げられる用にと屋上でじっ体を休めていた。
「これから、どうしたら、いいかな…」
龍人を相手にするのは初めてのこと。どう対峙したらいいのかも分からない。ワルキューレの訓練中に教わったのは、戦い方と龍人の特徴についてだけだ。
『龍人の瞳は暗闇でも金の色は薄れない。やつらは鳥人よりも目が良い。もし夜に龍人に出くわしてしまったら振り切れるまで飛び続けろ。爪を使われたら、お前の武器は役に立たない。兎に角逃げろ。絶対に捕まるな。』
(爪って、手の爪とかだよね・・。爪がどうなるんだろう・・)
今自分はとんでもない状況にある。教官に何度も言われたことを思い出す。きっとこの古城に自分がいることは敵に悟られているだろう。早くここから移動しなくてはならない。じきにこの城まで追い付かれてしまえば、きっと自分には勝機も無い。隼はふらりと立ち上がり、城壁の端に登り城の外に飛ぼうとした。だが、身を乗り出したまま固まった。
「あ、」
眼下に、屋上を見上げる金色の双眼と目があった。一人の龍人が既に真下にいたのだ。獲物を再び見つけた喜びを語る龍眼。その口元は残忍に釣り上がった。
隼はそこから飛ぶことができず、背を後ろに引きながら城壁の内部に倒れこみ尻餅をついた。
(どうしよう…!どうしよう…!)
逃げようにも外に一人龍人がいた。このまま飛んでも捕まってしまう確率が高い。
しかし、ここに居てもきっと別の龍人が城をあがってここまで来てしまう。
(できるだけ、遠くに飛ぶしかない!!)
隼は助走を付けて城壁から飛ぶ方法を考えてまた外側を向いたとき、完全に動けなくなった。
「あ、ぁ…」
龍人がそこにいた。
城の外にいたはずの龍人。信じられない身体能力だ。なんと城の壁を登ってきた。形の崩れた古城であったため、ここまでの足場はいくらでもあったのだろう。城壁の隙間から顔を覗かせ、こちらを見ていた。わざとらしく隠れたまま、弄ぶようににたにたとこちらを見ていた。
月明かりの逆光で殆ど影になっていたが、すぐそこにある龍の金眼だけギラギラと光を放ち、隼に生まれて初めての死への恐怖を植え付けた。