ハヤブサの憧れ
その頃、羽梟とアギナが後にした鳥軍の野営地。そこでは既に敵との決着が付いていた。サイナスが率いるソルジャー隊と、走竜に乗り襲撃してきた龍人。頭数で劣勢だったが、一人も負傷者を出すことなく事は沈静化されていた。敵を捕縛し、意識のある者を尋問する。その他は皆戦闘不能。数で勝ろうとも、彼らには遠く及びはしなかった。
「馬鹿な……なぜ、貴様らが、“ソルジャー“がここに……………」
「なんだ。我々が居ると知らずに攻撃しにきたという事か・・。なるほど。少々拍子抜けだが、ただの偶然か・・。それとも、そちらの指導者はお前たちを捨て駒として使っているか、だな。」
「な・・・」
「どちらにせよ。我々が此処に居た理由など、貴様らに知る権利など無い。」
「こんな・・ガキに・・」
「・・念のため、職務上聞いておく。お前たちを雇ったのは誰だ?何が目的だ。」
「・・・。」
手足を負傷し、身動きのとれない相手に詰め寄る。部下には死なない程度に容赦はするなと命じておいた。話しができる人数は一人で良いと。サイナスの問いかけに一切口を開かない。意地か、はたまた敗北による屈辱で黙しているのか。白状する気は無いようだが、サイナスにとっては不利益を被ることではない。気にせぬ素振りで話しを続けた。
「大方、襲撃すれば鳥軍がここを捨てるとふんだ上で、野営地を乗っ取るつもりだったのだろうが。残念だったな。」
「クソ………。」
深手を負っていた龍人が、ガクリと気を失った。これ以上の尋問は切り上げる。拘束した彼らをすぐに国に搬送しなければならないが、今はその時間は取れない。仕方がないと、太い幹にでも縛り付けておくよう指示を出した。
後やるべきことは、彼らが襲撃の際に乗っていた複数のドラゴンの処遇だ。翼の無いそのドラゴンたちは、一般的なドラゴンで、地を走る走竜と呼ばれている。翼のあるドラゴン、所謂飛竜は非常に知能が高く、特定の人物の命令しか聞かないのだが。しかし、この手のドラゴンは、背に乗った人物が龍人であれば誰にでも従う。推測だが、この走竜達は野生のものだろう。走竜達には気の毒だが、こちら側の手助けもしてもらう事にした。
「準備出来次第、我々も王都に向かう。全員!ドラゴンに乗れ!鳥王のご命令通り、王都へ加勢に馳せるぞ!」
「「「はっ!」」」
捕虜として捕縛した龍人達を残し、ドラゴンの走し出す音だけが重たく残った。鳥の王都までは、此処からかなりの距離がある。サイナスとしては日が変わる前には着きたい。王都では戦闘が続いているが、問題ないだろう。既に鳥王と同行させた部下が向かっている。我々が到着するまで、十分に戦局を維持できるだろう。
走竜に跨り移動を開始したサイナスは思案する。今回の事件、不可解な点が幾らかも出てきている。鳥の王都を攻めるには、鳥人が築き上げた要塞防壁を越えねばならない。その王都が攻められたとあれば、飛竜なりを使い、空から侵入したとしか考えられない。
「(森の龍人が飛龍を・・?)」
森の龍人が飛竜を使役しているとは考えにくい。何故ならば、飛龍が彼らを非常に嫌悪しているからだ。仮に力で捩じ伏せられたのだとしても、飛竜が下僕として彼らに付く等もありえない。とすれば、飛竜を使役できる者が彼らに加担したと考えるのが、一番自然だった。
「(もしかすると、我が国の上層で、王の目が届かぬ暗躍が存在するかもしれない・・)」
飛竜を使役できる龍人は限られている。ソルジャー隊の長であるアギナもそうだが、その特殊な職力は龍の国の管轄で管理されるものだ。今回の騒動を企んだ輩が、権利や権限を行使し、森の龍人を動かしているとしたら、それらは我が国と、龍王への叛逆にほかならない。十分に有り得る推察だが、真実ではないことを心から願った。
「(アステカ王はどうされているだろうか・・)」
走竜に乗り、部下を率い風を切りながら、サイナスは国に留まる龍王アステカを想った。夕日はもうじき沈み、姿を消そうとしていた。