Amuro toru
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「え?いなくなるの?」
「いや、そういう可能性があるかもしれないという"もしも"の話だよ」
きょとん、とした顔をしながら彼女は僕を見ていた。
もともとのんびりとした性格だ、ゆっくりと自分の中で考えた後に口に出すのだから、彼女との話はとてつもなく遅い時がある。
だが、本来頭の回転は悪くないし、知識もある。そんな彼女がこんなにも迷いながら話をするのは"自分"に関してのみ。
ゆっくりと珈琲を片手に彼女の言葉を待った。しばらくすると、彼女はゆっくりと口を開く。
「いなくなるの?」
「いや、可能性の話だ」
おっと。少しわかっていなかったらしい。
またもや考え始めた彼女。ことの発端はというと、僕が警察学校に入ってからの話だった。
彼女は医者になるために今頑張って勉強をしている最中であるし、僕も彼女の夢は全力で応援したい。
だが、しかしだ。
僕がもし、ほんの可能性の話。もし、公安警察に配属された場合、そして、潜入捜査という任務についた場合。僕は彼女の傍にいることができない可能性がある。そういう話だったのだが、彼女はあまり想像することができないのだろう。
先ほどからその丸い目を僕に向けつつ、首を傾げている。
「んー…零君が私のこと嫌いになって、どこかに行っちゃう?」
「それはない」
「じゃあ大丈夫だよ」
「なら安心した」と言いながら、彼女は残りの珈琲-珈琲というにはミルクを入れすぎているかもしれないが-を口に入れながらそう答えた。
「大丈夫って…」
「零君が私のこと嫌いになって、私の前からいなくなるんだったら仕方がないかなって思うんだけどね」
「うん」
「でもね、そうじゃないなら私頑張って待っとけるよ」
だからね、大丈夫なの。
そう、彼女はまぶしい顔で僕にそういってくれた。
「安室さん?」
「!!」
「大丈夫?今日なんか具合悪そうだよ?」
はっと気が付くと、あの小さな少年が僕の顔を覗き込んでいた。
いつの間に…。周囲を見回すとここはポアロ、そして客はすでに誰もいない。
珍しい、昼時に人がはけるだなんて…。ああ、そうだ。少し時間ができたから休憩を入れていたんだ。
そうしているうちにうとうとしてしまったのか…なんて失態だ。体調管理も仕事のうちだというのに。
「大丈夫だよコナン君。ごめんね、ちょっと転寝してたみたいだ」
「そう?」
心配そうに見上げてくる彼になにかお詫びをしなければ、そう思いつつカウンターへと足を向けると、カラン、と音を立てながら扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
笑顔で振り返ると、時間が止まった。
「あれ?name先生」
「あら?君は…毛利先生のところの」
どうしたの、こんなところで、とコナン君と話を始める君。
ああ、警察学校卒業後からずっと連絡を取っていなかった君。
少し大人っぽくなったけど、やっぱり面影はあのときの君だった。
コナン君との会話に一区切りがついたのか、彼女はそっと彼から僕へと顔を上げた。
あの時と同じ、きょとんとした顔。ああ、変わっていない。
「name先生?」
「あ、ごめんなさい。不躾に…ついついお顔が整ってらっしゃるから…」
「はは…ありがとうございます、お席のほうにご案内しますね」
「知り合い?」
「いいえ?でも、こんな店員さんが知り合いにいたら、私自慢しちゃうかも」
「はは…」
彼の乾いた笑いと、そっとこちらに笑みを浮かべる君。
ああ、君は昔からそうだったね。
自分のことは疎いのに、人のことになると誰よりも頭の回転が速いんだ。
それに僕も何度も助けられた。
「ではこちらに」
「はい、ありがとうございます」
僕はまだ君を待たすことになるんだろう、だがいつか。
いつか必ず君を迎えに行くよ。
だから、また
あのまぶしい笑顔で僕を迎えてくれ。
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