Amuro toru
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What your name?
ここはどこだ、と目を開けたとき。
初めて見えてきたのは室内照明。その次にふわりと感じた匂い、女の匂いだった。
体をゆっくりと起こすと、腹部に走る痛み。そっとそこへ手を伸ばすと指にあたる強く巻かれた包帯。
「起きた?」
咥え煙草に白衣姿。白衣を着てるくらいなのだから医者なのだろうと思うが、咥えている煙草のせいでイラつく相手を思い出してしまって、眉間にしわが寄った。
それを見て、首をかしげると、手に持っていたマグカップを手渡してくる。
「ただの白湯。毒見でもしようか?」
「いえ…いただきます」
「ついでにこれ飲んで。抗生物質。次はそうだね、明日の朝でいいや。持って帰って」
自分が寝ているのが、リビングのソファーだったことにやっと気づいた。
女性はそのまま抗生物質とマグカップを俺へ手渡すとキッチンのほうへと足を向ける。
その先には、コーヒーメーカーがたてられており、白い湯気がのぼっているのが見えた。
「…あなたは?」
「ただの通りすがり」
「僕は、路地で…」
「そ。たまたま近道しようと路地に入ったところで転がってたから拾ってきた」
「拾ったって…ずいぶん優しいんですね。お医者さんですか?」
「闇医者って言われてるけど?」
「おやおや、それはまた…」
なんてことはない、彼女もこちら側の人間だったということだ。
まさか闇医者に拾われて手当てされるとは、思いもよらなかった。
たまたま組織の取引帰りに、闇討ちにあうとは思いもしなかった。
やはり、今日の取引先は黒か…。風見にも連絡を取らないといけない、と考えていると、ぼーっと彼女が俺を見ているのに気づいた。
「堅気の人間…じゃないね。銃創だったし。弾は抜けてたよ、よかったね」
「助けていただきありがとうございました。お礼は後日」
「いいよ、別に。猫拾ったみたいな感覚だし。それに」
あなた、ジンの知り合いでしょ?
彼女の言葉にピタリと動きを止めた。
なるほど、この闇医者、組織に関係があったのか。
それなら彼女が俺を助けた理由も説明がつく。
「何故僕のことを?」
「どっかで見た顔だと思って。
そういや、ジンが写真持って訪ねてきたことがあったなぁ、と今思い出した」
「ジンとはどのようなご関係なんですか?」
「なに?ずいぶん込み入ったとこまで聞くんだね、癖?」
「そうですね、僕探偵なので」
「へー、じゃあ探し物とかしてくれるの?」
「ええ、そうだ。これも何かの縁ですし、助けてもらったお礼ということで、無償で依頼お受けしますよ」
ジンの知り合い、もしかしたらなにか組織の情報を知っているかもしれない。
そう思った俺は、これはチャンスだといわんばかりに彼女との関係を切らさぬように話を持ち掛けた。
闇医者と言っていたが、組織の人間がよく彼女のところを使ってるのかもしれない。
ここに居座れば何か情報が手に入るだろうか…。
と、ふと部屋の中に目をやると、思いもよらないものが目に飛び込んできた。
「あ…」
「ん?知ってるの?彼」
「…えぇ」
「なんだ、組織の人だったんだ」
一度咥えていた煙草を手にとり、大きく息を吐き出す。白い煙が部屋に舞い、すっと消えていった。
それが長い時間のように感じたのは、おそらく俺だけだ。
なんせ、彼女からの答えが早くほしかった。
写真に写っている"彼"のことを。
「知ってる?彼の最期」
「…はい」
「ライがケリをつけたらしいんだけど、どうも信じられなくてさ。
親指には血がかかってなかったから、自殺だと思うんだけど…」
そういいつつ、写真のほうへと足を向け、それを手に取る。
そのままその写真を俺のほうへと差し出してきた。
間違いなかった、写真に写ってるのは
「スコッチ…」
「よく遊びに来てたんだよ。ここ、なんかたまり場みたいになっててさー」
「仲が、よかったんですか?」
「…どうだろ、今日みたいに怪我してたの拾って、手当して…。
そこから懐いてくれたんだ」
「彼からは何か…?」
「ん?何も?」
きょとんとした顔、本当にスコッチは何も話しをしていなかったんだろうか。
写真に写ってる彼と目の前にいる彼女。
彼女は白衣のままであるし、彼に至っては病院服だ。
そういや、一時期怪我がひどくて入院したことがあったな、数日で帰ってきたが…。
「あなた病院に勤務してるんですか?」
「勤務してた、ってのが正解かな」
「…そうですか」
咥え煙草に白衣、ダルそうな目つきで、生活力の感じられない部屋。
よくよく見まわして見てみると、服はごちゃごちゃに床へ投げ捨てられているし、使用済みのマグカップや皿が流し台で散乱している。
それに咥えて、隅のほうへ追いやられているゴミ袋の中身は、コンビニ弁当やカップ麺が大半を占めていた。
ああ、きっとこの状況をスコッチも見たんだろう。あいつのことだ、世話を焼いていたに違いない。
「彼がいなくなってさ、なんかどうでもよくなってきて。
そんなとき君が目の前に落ちてたんだ。ねぇ」
ここに住まない?と、突拍子もない申し出に驚きのあまりに言葉をなくしたが。
なんてことはない、彼女もスコッチがいなくなったことで、とても寂しい思いをしていただけなのだ。
「…ふっ…まるで傷のなめ合いをする猫のようですね」
「何の話?」
「こっちの話です。あ、そういえば名前を聞いていませんでしたね。
僕の名前は安室透。あなたの名前、教えてくださいませんか?」
「…name、familyname」
「では、name。同居人としてまず初めに言わせてもらいます」
掃除は覚えてもらいます。
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