Aizawa
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「お願い、私のこと嫌いにならないで」
これが彼女の口癖だった。
彼女を見つけたのは仕事中だ。敵のアジトに拘束されていた一人。人質の一人だった。
彼女は何もしらなかった。無垢な少女、その言葉がぴったりな少女だったのだ。
もう年齢的には20手前といったところか、だが、彼女のそれは20には程遠いものだった。
「嫌いにならない、何度だって言うぞ」
「でも…私、こんなにも使い物にならない」
「お前がそんなことをする必要はない。したければしてもいい、だが、それをしたことによる結果でどうこうなるものじゃないんだ」
できるだけやさしく、だがしっかりと彼女には教え込まなければならない。
食器を洗おうとして、落とした皿の数々…。別に割れた食器は買えばいい。掃除だってすればいい。
ただ、彼女の心の傷はこうして、何度も何度も言い聞かすしかないのだ。
何かできなければ必要とされない、なにかができなければ殺されるしかない。そんな状況下で暮らしていた彼女を引き取ったのは、ただの同情なんかではない。
ただ一言、一目ぼれ、というやつだ。
そんなもの、まったく信用していなかったんだが、自分が経験すると、ああ、こんなにも彼女を俺は愛しているのだとなんだか納得してしまうのだから不思議なものだ。
そして、そんな一目ぼれした彼女は、さっきも言ったように、必要とされなければ殺される。嫌われれば殺される、そんな暮らしをしてきていたわけで、人の顔色にとても敏感だった。
「相澤さんは本当にやさしいですね…こんなにも私…」
「…確かに、片づけは大変だが、別にそれが苦だというわけじゃない。お前が怪我をしないかどうかだけが、俺の心配事だ」
「怪我ですか?」
「ああ、痛いだろう?」
「それは…でも」
「痛いときには痛いといえばいい、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。嫌いなものを無理やりする必要はない。まあ、中には生活上必ずしなければならないこともあると思うが…」
人の顔色を見るのはもはや彼女の癖、というよりも習慣になっているんだろう。
それをやめろとは言わない。
「俺といるときぐらいは、肩の力を抜いたらいい。
お前がしたいことで、やったことのないわからないことは俺が教えよう」
「…ホットケーキ、作ってみたいです」
「ああ、それぐらいお安い御用だ」
取りあえず、一緒に割れた皿の片づけをしようか。
それから材料を買いに行こう、ゆっくり二人で歩きながら…。
こんなどうでもいい行動一つとっても、俺にとってはとてもかけがえのない瞬間なんだ。
なぁ、name。お前はどうだろう?
いつか、お前もそう思ってくれる日は来るんだろうか。
それこそ愚問か。
お前のそのやわらかい笑みは、きっとその答えなんだろう。
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