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ふと、朝起きるのがしんどくなってきたと思いぶるりと体を震わせた。
今年も肌寒い季節がやってきた。
薄目のコートを羽織り、町へと繰り出す。
町中を歩いていると至って平和。誰も私があの「オールマイト」だとは思っていないだろう。
それもそのはず、似ても似つかないこのやせ細った体にこけた顔。
手術痕がまだ痛々しく残っており、痛い思いをしながらヒーロー活動をしたのは記憶に新しい。
信号待ちのため、ショーウィンドウ前で足を止めた。
目についたのは今流行りのコスメショップだ。
働く女性をコンセプトにいろいろなものをだしている…と聞いたことがある。
はっきり言って「おじさん」からしたら少し…、いや、あまり違いが判らない。
まあ、おしゃれなんだなっていう感覚しかないのが事実。
私自身服装や持ち物などは注意しているが…さて、世間一般女性がそこまで気づくだろうかというと首を傾げるところだろう。
男女のおしゃれ感覚なんて人それぞれであって実際理解できないこともあるということだ。
そんな中、気になったのは一つの口紅だ。
今時口紅もいろいろな形があるのだなぁと感心した。
瓶に入っているそれはいわゆる「グロス」らしく、横で映っているテレビの中では若い女性がそのグロスを付けているシーンが映っていた。
まあ確かに、こういう見た目から入ることも大事だな。
そのとき、思い出したのが彼女の口元だった。
所属事務所を秘密ながらに縮小させる中、裏方の事務作業を一手に引き受けている彼女は私の恋人だ。
知られていないことがほとんどであるが、一部の私の同僚には有名な話だ。
だからか彼女はあまり外へ出たがらない、というのも彼女の仕事はさっきも言ったようにもっぱら「裏方の事務作業」だ。
そんな彼女も化粧はするし、服装は気にする。
それもそうだろう、通勤は顔出すしね。
「…そういや彼女口紅の色変わったかな」
前はもっと薄いピンクっぽい色をしていたような気がしたけど…。
最近なんかこう…もっと違うような色をしている気がする。
いや、私の思い違いかもしれないけども…。
「…」
私、まずいんじゃない?
* * *
「はい?」
「いや、あのー…なんか雰囲気変わったかなーって思って」
「急にどうなさったんですか?」
首を傾げる彼女。うーん、そういうところも可愛いんだけど今はそんな場合じゃないんだよ。
彼女のおしゃれにも気づけず、ヒーロー活動に専念している私は彼女をないがしろにしているんじゃないか…
いや、それどころか私彼女に捨てられる?!と焦りに焦って戻った事務所で彼女にかけた言葉はなんとも間抜けな言葉だったのだろうか。
彼女もいきなりの私の言動に驚いているじゃないか。
失敗だ、これは…。
「そ、そうだ、髪型!!」
「髪の毛を最後に切ったのはもう1か月近く前になりますけど?」
もう私墓穴掘ってるんじゃないかな…。
「あー…化粧かな、なんか前と違う気がする」
「よくわかりましたね、これは最近変えたんですよ」
あたった!!!あたったよ私!!!
よかった、私間違ってなかった…。
彼女の変化がわからないほど私は彼女に無頓着だったんだろうか、そう思っていると自分でも情けなくなってきてなんだか落ち込んできた。
「情緒不安定ですか?」
「うっ!!!」
「まああなたの妄想癖は慣れましたけど」
「…name、結構私つらいよ」
「あなたの意味不明な言動よりましですよ」
ああ、いいやなんかもう。
「name、君のこと私もっと大事にするよ」
「取りあえず私はなぜそういう考えにたどり着いたのか気になりますけどね。
私はあなたにないがしろにされた覚えも、大事にされなかった覚えもありませんけど?」
「name!!!」
ガバリと小さな体に抱き付くと腹部に入る鉄槌。
グフッという声を上げながら吐血するのを免れた私。
あれ、私大事にされてるのかな?
でも彼女の言葉はとてもうれしい言葉だった。
「ほらほら、仕事は山積みですよ。早く片付けてください」
「ハイ」
私はまだ知らなかった。
彼女の持っている口紅は私をイメージに作られていたものなのだと。
それに気づいた私がまた彼女に抱き付くまであと数日はかかる。
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