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「大丈夫?けがは?」
「あ、な、ないです…」
「そう、よかった」
そういいながらふわりと笑った人はとても儚げで、とてもきれいだった。
念願の雄栄高校に合格し、晴れてヒーローへの第一歩を踏み出した僕はオールマイトにもらった個性をどうにかして自分のものにすべく日々学習する毎日だった。
ただ、どうしても個性を制御することができずにいつもリカバリーガールのところで怪我を治してもらってるんだけど…。
そんな怪我を治してもらった帰り-リカバリーガールは治癒力を高めるだけだから、体力をごっそり持っていかれる-ふらふらしていた僕はその場でうずくまってしまった。
少し休めばまた治る、そう思っていた時だ。
香って来たやさしいにおい、細い足に白いワンピース。
カーディガンを羽織ったその人と出会った。
「君、緑谷出久君でしょ?話は聞いてるわ」
「あ、ありがとうございます!!!あの、先生…でしょうか?」
「ええ、リカバリーガールのお手伝いをさせてもらってるの。保健室で校医をしてるわ。よろしく、緑谷君」
「よ、よろしくお願いします!!」
やさしいなあ、保健室の先生って感じがする。
すっと差し出された手にはそんな柔らかな先生とは裏腹に少しごつごつした「まめ」があった。
そっか、やっぱりこの先生もヒーローなんだ…。
その手にそっと引かれてその場から立ち上がる。
「先生はヒーローなんですよね?」
「ええ、そうよ。でもデビューしてすぐに裏方に回ったらあんまり知られていないかもね」
「ヒーロー名は?」
「メディカルヒーロー、キュア。主にサイドキックとして治療することがほとんどだったわね」
「へー、そうだったんですか…」
「リカバリーガールに言われてこの仕事を始めたんだけど、こっちのほうが私の性に合ってるみたい。緑谷君は…そうね、オールマイトが目標だったものね」
初めて会う先生にそんなことを言われるとは思わなかった。
確かにオールマイトをイメージしたコスチュームだったし、オールマイトと同じような掛け声で技を出してるのも確かだ…。
でも、この先生が授業の内容を事細かに見ているなんて思えないし…。
どうしてそのことを知ってるんだろう。
不思議に思っていると後ろのほうから足音が聞こえてきた。
「緑谷少年、どうしたんだ?」
「あ!!オール…っ!!?」
危ない危ない、トゥルーフォームのままでオールマイトの名前を呼びそうになった、が、次の瞬間僕はオールマイトが来た以上に驚くことになったんだ。
「あら、あなた。なにか残していた仕事が?」
「君がなかなか車に戻ってこないから心配したんだろう?体調が悪いから一緒に帰るって言っただろうが」
「そうでしたね、すみません」
「緑谷少年、すまなかったね」
「ぼくは大丈夫です!!で、でも…あれ?先生…?」
「あ、ごめんなさい。まだ名乗っていなかったわね。私はname。彼の妻なの」
衝撃的瞬間だった、オールマイトに妻!?結婚してたんだ!!?
僕の驚きは二人にも伝わったのか、どちらも微笑みあって、とてもお似合いの二人だと思わざるを得なかった。
「知らなかったです、オールマイト…結婚されてたんですね」
「知らないのも無理はないよ、非公式だからね。入籍はしたが、結婚式は上げられなかった…」
「気にしないでくださいと何度も言っているのに…。それにこの姿になってからは堂々と妻ですって名乗ることができるようになったのよ。私はうれしいわ」
「うーん、ちょっと複雑」
オールマイトは今の姿になってヒーローとしての活動限界が1日3時間になってしまった。
それはたぶん、ヒーローとして致命的なことなんだろうけど…。
でも、この人はそんなオールマイトの問題を受け入れてるんだ。
その上で何ができるか考えて…。
「もしかして、name先生が赴任したのって」
「彼のサポート。私はリカバリーガールと違って相手の治癒力を奪わず、体力を回復させることができるから。
彼のサポート係として私は引っ付いてきたの」
みんなには内緒よ、というname先生はとても魅力的だった。
「緑谷少年、彼女はワン・フォー・オールの秘密を知る数少ない人物だ。
何かあればいつでも声をかけるといいよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「さて、私はこの病弱なワイフを家まで連れて帰らないといけないからね、これで失礼するよ。また明日、緑谷少年」
「またね、緑谷君」
「はい!!!さよなら!!!」
二人並んで歩いていく姿はとても素敵で、ふと気づくといつの間にか僕の体力は回復していた。
「とても素直な子ね」
「だろう?だから彼に私の力を譲渡したんだ」
「彼が一人前に育っていくのを見るのは楽しみだわ」
「そうだね」
それに伴い私の力はどんどん衰えていくのだけれど、隣にいる愛すべき妻がいればなにも怖くない。
たとえ私にヒーローとしての力がなくなっても、彼女は笑って傍にいてくれるのだろう。
これを依存と呼ぶのかもしれないが、私には彼女が必要なのだ。
「ありがとう、name」
「なに?突然」
「いつも黙って私を支えてくれることさ。君がいるからこそ今の私がいる」
「それこそ今更よ、まだまだたくさんやることが残ってるんですから、弱音を吐かないで下さいな」
お揃いの指輪が左手の薬指で光っていた。