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「サイアク…」
ついていない、その言葉に限る。
なにが悪いって?そんなのあの男が悪いに決まってる。
つい数時間前までは私の彼氏だった男。もう今では元カレというのが正しい。
その男との付き合いはもう3年ほどになるけれど、彼という本質を見極めることができなかったのだから私が悪いのかもしれない。
久しぶりのデート、それも今年で4年目になろうかという今日。
そう、今日が記念日だったのだ。
だからもうずん前から予定は開けとこうと二人で約束したのにも関わらず、彼はドタキャン。
私もヒーローという職業だ、ドタキャンすることはあるし、むしろ私のほうが多かったと思う。
そんな彼がドタキャンして、何気なしに、そう、暇つぶしにだ。町に繰り出した私が悪いのか?
いやいや、きっと今、この日にわかってよかったんだ。
彼は私よりも胸の大きなきれいな女性と一緒に腕を組みながら歩いていた。
もうそれはもう、見た感じでわかった。
この女が浮気相手だと。
指輪を外し、彼の前へと立つと、彼はというとなんの悪びれもなくこう言ったんだ。
『悪いな、name』
こいつはきっと私なら簡単に許してくれると思ったんだろう。
にこりと笑って、別れるのだとそう思ったんだろう。
『はあ?ふざけんな』
これが私の回答。
顔すれすれの寸止めという名の拳。
彼はというと何が起こったのかわからないといったふうに目を丸くさせていた。
隣で腕を組んでいた女性はというと青い顔をしながらがたがた震えている。
そうだよ、それが普通の反応だよまったく。
「私がなんでも許すと思うなよバカー!!!!」
「ごめんね!!!」
「?」
しゃがみ込んでいた私の隣にいつの間にか大きな人がたっていた。
靴は大きいし、顔を上に向けるけど一向に相手の顔が見えてこない。
一度立ち上がって隣の人を見上げると、なんとも大きな体。
高い身長のわりには骨と皮だけで手来てるんじゃないかと思うくらい痩せている。
「どちらさま?」
「あ、失礼。君と同じように雨宿りしにきたただのおじさんだよ」
「おじさん…って年には見えないけど…」
「すまないね、邪魔をしてしまって。つい反射的に答えてしまったんだ。ああ、つづけてくれ!!」
「や、何を続けろと…」
何、この人。
普通に見たら怪しい人に思われても仕方ないような感じ。
だぼだぼの服だし、顔つきはこけてるし、敵?っておもってしまうのも無理はないと思う。
でも、どうしてだろう。
「なんだか不思議ね、あなた見てると安心するわ」
「それは光栄だ、お嬢さんにそういわれるとおじさんうれしいよ」
「私ね、彼に振られたの。信じられる?浮気よ、浮気。
もうほんと嫌になっちゃうわ。男の人って本当に胸が大きい人に弱いのね」
「そうか、浮気相手は胸が膨よかな女性だったんだね」
「女は中身だなんて言っちゃダメよおじさん。いつか絶対裏切るときが来るわ」
「君は言うことがキツイな。わかった、肝に銘じとくよ。
ただねお嬢さん。一つ訂正させてくれないか?」
ちゃんと君という人間を見ている人はたくさんいるよ。
「ほら」
おじさんが出してきたのはSNS。
手の中にある携帯が小さく見えてしまうのはそれほどこの人の手が大きなものだからなのだろう。
覗き込んでみるとそこには私のあの寸止め事件の一部始終が載せられていた。
やっぱりどこかにフォロワーがいたんだろう、まずいなぁ…これでマイナスイメージになって仕事に支障がでたらどうしよう…。
「ここ、読んでご覧?」
「え?」
指をさしたところには
『もしかして浮気されたの!!かわいそー』
『尽くすタイプだろ?浮気した男サイテー!!』
『がんばれ!!応援してる!!』
『きっといい人見つかるよ!!』
中には非難中傷の声もそりゃあったけど、でも…。
「うれしいなぁ、ヒーローとしての私を見てくれてる人がこんなにいる」
「ヒーローの君も君の一つのかけらだからね。
ということで」
サイン、くれないかな?
「え?」
「実は、私も君のフォロワーなんだ。デビューした時から知ってる。
君を町中で見かけたときは驚いたよ。やっと話しかけられるとおもったらあれだ。びっくりした」
「そ、それはどうも…」
サインをし終えた後、そのまま雨の中へと消えてしまった彼。
そういえば、雨宿りしにきたんじゃないの?と思っていたが、いつの間にか雨は小降りになり、向こうの空からは雲間から光が差し込んできた。
ああ、最悪な日になったと思った瞬間、素敵な時間を過ごすことができた。
後日、母校訪問をした際、彼を見ることになるのだが、今の私はそんなこと思いもしていなかった。
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