Aizawa
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「おはようございます、先輩」
「お前は本当に一度ぶん殴られねぇとわからねぇらしいな」
包帯ぐるぐるまき、動かせるのはたぶん指一本くらいだと思う。
激痛が走るからどこも動かす気にならなかった。
ちらりと目をやると、私を見下ろしていた相澤先輩がなんともいえないような顔をしているのが飛び込んできた。
「なんて顔してるんですか」
「それはこっちのセリフだ。なんだそのガーゼの数は。
仮にも女だろうが。顔に傷つくってどうする」
「先輩の口からそんなことがでてくるなんて思いもよりませんでした。明日は槍でも降るんじゃないですか?」
「そこまで減らず口たたけるんなら安心だな」
カタリとベッドサイドに置いてあった丸椅子へと腰かける。
先輩のこのじっとなにも言わずにいる沈黙が私は嫌いだった。
沈黙を与えることは大事だとなにかの文献で読んだことがあるけど、苦痛になることもあるんだと私は知っている。
「俺が言いたいこと、わかってるよな」
「…」
「なぜ待たなかった。待っていたらお前が怪我をすることはなかった」
「待っていたら人質は殺されていた」
「…」
「私はヒーローです。確かに先輩のようなプロには程遠いかもしれませんが、私はプロで、ヒーローなんです」
駆け出しであろうと、ヒーローには変わりない。
私より先にプロヒーローになった先輩は、メディアにはそれこそ出てこないけれどアングラ系ヒーローとして裏の仕事を受け持つことも多く、裏では名の知れたヒーローだ。
私はというとまだまだ働き始めて数か月で、それこそ先輩からお小言を言われることだって多かった。
でも、だからと言って
「駆け出しだからって、人質に取ってプロはプロです。それは変わらない」
「…ああ、お前の言っていることはもっとも正論だ。だが合理的じゃない」
「わかってます」
でも、あんなに泣き叫ぶ人質をみて、私は指をくわえてみていることしかできないその現実に耐えきれなかった。
その結果がこれだ。
人質を救ったのは救えたが、自分がそれ以上に怪我を負った。
ヒーローは命がけで正しいことをするお仕事。あのオールマイトだってそういっていた。
「理屈じゃないんです。気付けば体が勝手に動いてた」
「…そうだ、理屈じゃない」
左手に激痛が走った。
顔をゆがめたのにも関わらず、先輩は私の手を両手で握りしめ、自分の額へと持っていく。
「理屈じゃない、そんなことはわかっている…わかっているが納得できるわけないだろう」
お前が無事でよかった…。
「…私、一度あきらめたんです。
ああ、ここで死ぬんだって…。私の一瞬だけでも助け出したあの子供はどうなるんだろうって。
もう…先輩に会えないんだって、そう思ったとき…とても怖かった。
もっと先輩とお話ししておけばよかったって後悔した」
「…」
「でも私、もう一度先輩に会いたいってあの瞬間、数秒にも満たなかったあの瞬間にそう思って…」
最後の一振り、それが決め手だったとほかのヒーローが言っていた。
応援が来たとき、私の最後の一撃が敵に決まったのだと後から知ったが、その瞬間を見たヒーローたちはこういっていたという。
「さすが、イレイザーヘッドの後輩だって。うれしかったな」
「お前が重症だと聞いたときはぶん殴ってやろうと思ってたんだがな…。
お前の話を聞いて俺も、鼻が高かったよ」
だから早く治せ。んでもってぶん殴らせろ。
「結婚式はそれからだ」
「あれ?私先輩と付き合ってたんでしたっけ?」
「今俺が決めた。死ぬ前に俺と結婚しておけ」
殴って顔が腫れてしまったら結婚式が台無しですからほどほどにしてくださいね、といったそばから平手うちされた。