Tatikawa
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「ってか、最近太刀川さん見てないよなー」
「ああ、nameさんにつかまってるからな」
出水の言葉に米屋は首を傾げる。
聞いたことのない名前だったからだ。しかもnameという名前…。
「へ?女の人?ってか誰?」
「太刀川さんのなんか知らねーけど保護者的な?」
「保護者ぁ?」
ますますわからない。
身内か誰かきてるのか、とも考えたがつかまってるという表現からしておそらく本部には来てるんだろう。
身内でもボーダー関係者以外は立ち入り禁止のはずだから、まずボーダーの関係者なのは間違いない。
米屋のちょっと残念な頭の中ではいろいろな考えが繰り広げられていた。
「保護者って…なんだよそれ」
「たしか、腐れ縁とかなんとか言ってたなぁ」
そういう出水もあまり知らない「name」という人物の存在。
出水がそのnameを知ったのは太刀川経由だ。
「げ」という太刀川のつぶやきに反応すると、少し言いづらそうに太刀川が説明したのだ。
「高校自体からの付き合いだって言ってたな」
「へー、彼女とか?」
「彼女とか恐ろしいとさ」
「へー、太刀川君そんなこと言ってたんだ。今度会ったらシめる」
ぎょっとしたのは出水もだった。
ずしりと重たく感じた頭。その上には少し細い腕がのっていた。
向かい側に座っていた米屋も初めて見る顔に目を丸くさせている。
それと同時に、この人物こそが今話をしていたnameなのだということも理解した。
「初めまして、太刀川君の腐れ縁のfamilynameです」
「ど、どーも…太刀川隊の出水公平です…」
「三輪隊の米屋陽介です」
「よろしく、出水君に米屋君。さっそくだけど、あのバカ、どこにいるか知ってる?」
あのバカ、というのが太刀川だということは言わずもがな。
A級3バカと数えられている二人でもそれは理解することができた。
目の前にいる女性はというと、おそらく太刀川と同い年。
なかなかいない美人と分類されるほどの人だった。
だが、出水が唾を飲み込んだのは美人だからではない。
目が笑っていないその顔に対して、この人物に逆らってはいけないという1秒の間に形成された上下関係。
そして、この後の返答次第で敵と認識されるかもしれないという恐怖。
「あー、実は俺らも知らないんすよ。
太刀川さん最近見てねーなーって話してて…」
「俺もnameさんのところかなーって思ってて、こいつと話してたんすよ」
「なるほど…。家にもいないから本部に来てるだろうって思ったけど、ちょっと違ったか…」
あのバカ、どこに行きやがった。そうつづけたnameはそのまま出水の隣に腰掛ける。
ふわりと匂う香水の香りに出水はどきりとした。
「なに?」
「いや、nameさんのこと腐れ縁とかは聞いてたんすけど…実際どういう関係なのかなって」
「太刀川君の言う通り、腐れ縁かな?
まあ、厳密にいえば私は妹弟子なんだけど」
「え、ってことは本部長の弟子?」
「そんな感じ、長い期間教わってたわけじゃないんだけど」
なるほど、太刀川の頭が上がらないのはバックにいるであろう本部長の存在もあったからかと二人は納得する。
だが、なぜ太刀川はnameから逃げ回っているのかそこが気になるところだった。
そんな二人の疑問を感じたのか、今度は呆れたように笑いながら口を開く。
「あいつ、レポートの提出がまだなのよ」
「あー、なるほど」
なるほど、nameさんはいわゆる大学でのお目付けやくというわけだ。
忍田本部長の弟子であり、自分の妹弟子であるnameになかなか上がらなく、かつレポートの手伝いをしてくれる彼女に対して強気に出れない太刀川は、まず会わないことを選択したらしい。
「変なところで頭が回るからなー…」
「どっかで猛勉強してるんじゃないですか?」
「それはない、そんなことする気があるならまず私から逃げ出すことはない」
ごもっともだ。
大方どこかでのらりくらりやってるんだろう。
そう思っていると視界の端に映った特徴のあるもさ頭。
すかさず出水もその向かいに座っていた米屋も、nameもそのほうへと顔を向けると。
「へー、新しく入ったんだ。オペレーター希望?」
「そうなんです、太刀川さんは攻撃手一位なんですよね?すごいです!!」
「そうか?そうだろうそうだろう、なんなら手とり足とりいろいろ教えようか」
「本当ですか」
おそらく新しく入ってきた人物を狙っていたんだろう。
長くボーダーにいる人物ならだれでも知ってる、太刀川がどれだけずぼらな性格をしているのかということを。
ちらりと出水は隣に座っていたnameに視線を移した。
すると、いつの間にかnameの手には弧月が握られており、その時初めて出水と米屋は彼女がトリオン体であったことを知る。
かたりと静かに立ち上がるとすかさずその弧月を逆手に持ち、大きく振りかぶったかと思うとすごい速さでそれを投げる。
その弧月はというと太刀川の鼻すれすれをかすめ、向こう側の壁へと思い切り突き刺さった。
さすがの太刀川も何が起きたのかわからなかったのだろう。
壁に刺さった弧月に一度視線を移したのち、顔を青くしたかと思うとすぐさまこっちへと視線を移した。
あー、米屋と出水の心の中の声は一致した。
「太刀川、ちょっと面かせ」
「name…っ」
親指をくいっとこっちへ向けるname、そんなnameをみて一目散に逃げ出す太刀川。
「邪魔したわね、出水君に米屋君。また今度ゆっくり話でもしましょ」
「お疲れ様です」
「お疲れさまでしたー」
速足でそのあとを追いかけ、壁に刺さった弧月を抜く。
嵐のように去って行った二人を見て、大きくため息をつく出水と米屋。
後から聞いた話ではあるが、去年までnameは海外のほうへ勉強に行っていたという。
なんでもカリキュラムを終わらせ、帰国し再びボーダーへと顔を出すとだらけ切った太刀川を見つけたということだ。
こんな二人のやり取りは高校の時からだったと後に風間の口から語られることとなる。
これがボーダー本部名物になるとはまだ誰も知らない。