Jin
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その子は、手を真っ赤にしながら「それ」を抱きしめていた。
周りは瓦礫だらけで、ほかにはなにもない。
冷たい雨だけが、おれとその子の体にあたっては地面に落ちていく。
『おいで』
『…?』
『ほら、おいで』
誰かに赦してほしかったのかもしれない。
この子を助けることで、おれは、この惨劇の中、助けられなかった人達から。
「name!!」
たったったーと軽い足音が聞こえて、足を止めた。
聞き覚えがありすぎる名前だ。
その名前を叫んでいる相手はというと、本部長なのだから、ほかの隊員が足を止めるのも仕方がない。
口元に笑みを浮かべながら、目的の場所で足を止めて待っていると、向こう側の通路から見えてきた小さな影。
それはすごいスピードのまま、こちらへと走りこんでくるものだから、困りものだ。
きょろきょろとあたりを見回しながら走る癖はどうにかしないとな。
「よっ!!つっかまえたー」
「…ゆういち」
小さな体を抱き上げると、きょとんとした目が俺を映した。
「name、いい子にしてたかー?」
「うん」
「name!!!っと、迅も一緒だったか」
「忍田さんお疲れ様ですー。すみません、name預かってもらっちゃって」
「いや、こちらもすまなかった」
忍田さんがすこし困ったように笑っているのは理由があったらしい。
nameはというと、俺が任務の間、玉狛で一人で留守番させるわけにはいかなかったからという理由で、本部の忍田さんのところに預けていたのだが、忍田さんが会議で少し電話連絡を取っている間に、部屋から抜け出して、ランク戦の部屋までたどりついてしまったらしい。
そうなれば、あとは簡単。もちろんことの発端は太刀川さんが悪かったんだけど。
「慶のやつが面白がって、手当たり次第にランク戦を初めてしまってたんだ」
「いいですよ、玉狛でも似たようなもんですし。
よかったなー、name。みんな遊んでくれて」
「うん」
「私が見ておかなければならなかったのに、すまない」
「いえいえ、nameも他にいたずらしなくてよかったです。さ、帰ろうか」
太刀川さんは許可もなくnameをランク戦に参加させたということで、忍田さんから雷を食らってたし、別にランク戦に参加させたからと言って、nameが傷つくわけでもない。
というよりも、たぶんその雷でnameは驚いて逃げ出したんだろうけど。
小さなnameを抱き上げたまま、玉狛へと足を向ける。
「name、どうだった?本部は」
「人がたくさん」
「そうだなー、nameもランク戦するときはあそこにいかないといけないからな。
でもまぁ、玉狛でもみんな相手にしてくれるから、大丈夫だろうけど」
「けいが怒られてた」
「あー、太刀川さんね。そりゃ自業自得だ」
「…?」
「なんでもないよ、かえってレイジさんのごはん食べよう」
「うん」
4年前、nameは母親を亡くした。その亡骸を抱えながら茫然としていたところをおれが見つけた。
玉狛に引き取られてから、nameはめきめきと才能を発揮していき、今でも小さな体ながらも大きな戦力となっている。
一応、B級昇格に必要なポイントは稼いでるから、B級のくくりにはなっているけど、チームを作っていないため、それ以上の昇格はまだない。
おれが暗躍に連れまわしているからというもの大きな理由の一つになっているのかもしれないが…。
母親を亡くしたnameのもとに、タイミングよく現れたおれはnameの母親であり、父親でもあり、兄であり先輩でもある。
だからほかの誰よりもnameの信頼は厚いし、体を預けてくれるのもほかの誰よりもおれが圧倒的に多い。
だからだろうか、nameが、妹で、家族で、かわいい後輩以上に、ほかの見方をしてしまうようになってしまったのは。
「あー、リアル源氏物語」
「?」
「なんでもなよー、name」
はじめこそ、罪悪感からのきっかけだったのかもしれない。だが、今となっては、この小さな存在が愛おしくてたまらない。
「おれから離れていかないでくれよー、name?」
「…うん」
「わかってんの?本当に」
うりうりと、ほおずりするとくすぐったそうにするname。
でもまあ、まだまだ小さいnameだ。もう少し妹ポジションでいてくれよ。