Jin
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風が冷たい屋上。
あと一歩、もう一歩進めば終わる。そう思いながら進んでいた。いつも、いつも。
でも、その足はいつも、あと一歩で止まってしまう。
あともう一歩、たったそれだけなのに。
あと一歩が踏み出せない。
「またここにいたのか?」
「…なにか御用ですか?」
「いんや、たまたま」
「…」
よっこらせ、と言いながら、私の隣に座り込んだ男性。青いジャケットにサングラス。茶髪に、腰に携えている黒いそれ。
それが何か、私は知っている。
だって、よく知っていたもの。
「…なにか御用ですか」
「どうしてそう思うんだ?」
「あなたがたまたま来るなんて、ありえないからです」
「…そうか」
「私が、あと一歩を踏み出す未来でも見えましたか?」
私の問いに、彼-迅悠一-は黙り込んだ。
そして、小さく「いいや」と否定する。ああ、私は今日も踏み出せなかったのだ。きっと、明日も。
もう日が沈みそうだった、空がオレンジ色に染まっていき、どんどん町に明かりがともっていく。
そして、どんどんここは静かになっていくのだ。
「まあ座れよ」
「…」
すっと、静かにそこに腰を下ろす。
ぶらぶらと、地面につかない足を揺らすと、今でもあと一歩を踏み出せそうな気がした。
でも、彼の腕が背中を回り、肩を持つと、そのまま私の体は簡単に彼のほうへと倒れる。
こつんと頭に当たる彼の肩。
ああ、今日はトリオン体じゃないのか。
「もう日も暮れるなぁ」
「はい」
「どんどん暗くなってきた」
「そうですね」
「…そろそろ帰ろうか、name。寒くなってきただろ?」
もしかして、今日、彼がここに来たのは、本当は
「私、あと一歩を踏み出したんですね」
「…」
「だから来たんでしょう?」
「…」
「あなたは、昔からやさしい人だから」
「name」
頼む、頼むから
「置いていくな」
お前を縛り付ける言葉だってわかってる。
お前がそれを望んでいないんだっていうのもわかる。
でも、それでもだ。
「もう一人は嫌だ」
「…」
ぎゅっと、両腕で抱きしめてくる彼の腕は、少し震えていた。
冷たく、小さくなってしまったその人。
私たちの大切な人だった。
絶望が絶望を生んでいく。
私は、私たちはこうして、お互いをお互いで縛り付けながら生きていくんだろう。