Jin
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「あ」
「ん?」
彼女がそう口に出した途端、窓の向こう側からは雨音が聞こえてきた。
すると、すこし不機嫌そうになった彼女がソファーの上で膝を抱える。
「なんだー、name。不機嫌そうな顔して」
「雨、あんまり好きじゃないの」
「どうして?」
「…匂いがわからなくなるから」
彼女のサイドエフェクトは嗅覚超化だ。
それも犬なみ。
俺がまだ見えない結構離れた場所にいても彼女は俺のにおいがわかる。
トリオン体に匂いがあるのかと聞かれれば俺も首をかしげるが…。
ただ鼻が利きすぎるために、少しきついにおいをかげば彼女にとっては大打撃だ。
そのため、人ごみに紛れることなく一人でいつもぽつんといた彼女。
「俺は結構好きだけどな、雨」
「どうして?じめじめするし、外にはいけないし…。
洗濯物だって乾かない、いいことなんてほとんどないわ」
「こうしてお前と家でゆっくりすることができるだろ?」
にやりと笑いながら読んでいた雑誌から顔を上げると、きょとんとした彼女がこっちを向いていた。
風間さんには負けるけど、童顔だなぁなんて思う。
「家でゆっくりするほうがいいの?」
「時と場合によるけどな」
「じゃあ今日はそっちのほうがよかったんだ」
「最近お前も俺も忙しくて疲れてただろう?」
「んー…確かに」
そうかもね、とはにかみながら彼女は俺の傍へと寄ってきて床に膝をつく。
額をうりぐりと押し当てる姿はまるで犬のようだった。
「あと長靴履けるぞー、新しく買ったやつ」
「あのベージュのやつ?」
「おお、nameに似合うって俺のサイドエフェクトが言ってた」
「そんなことも言ってくれるの?サイドエフェクト」
「なにそれー」と笑うname。
彼女の笑顔に俺はどれだけ救われたんだろう。
一つの未来の中には、その長靴をはいて、お気に入りの傘を差したnameの姿が見える。
うんうん、やっぱりよく似合ってるよ。
ふたたびこっちへと意識を戻すと、またきょとんとした顔がこっちを向いていた。
「なにかまた見たの?」
「nameの長靴姿かわいいなぁって」
「またそんなこと言う。そんなんだから変態エリートって言われるんだよ」
「誰がそんなこと言ってたんだ」
大方、太刀川さんあたりが言いふらしてるんだろなってのは想像がつく。
高校3年の彼女は太刀川隊の出水達の先輩だ。
来年大学生、っていう雰囲気じゃないけどな、これは。
まあそこも彼女の魅力だからよしとする。
彼女の頭に手を乗せ少しぐしぐしと動かすと、されるがままになってる彼女。
「駅前にクレープ屋さんができたんだ」
「なんだ、name。珍しくおねだりか?」
「新しい長靴履いていきたいなぁ」
「仕方ないな、この実力派エリートがお供しますよ」
なるほど、新しい長靴、お気に入りの傘を差したnameはクレープを買いに行ってたのか。
よっと、重たい腰を上げるとその後ろを軽い足取りでついてくるname。
いつもnameは体いっぱいで表現してくるから、なんだか甘やかしたくなるんだよな。
「俺はきっと、もっともっとnameを甘やかすんだろうな」
「なーに?いきなり」
「いんや、こっちの話」
これからももっともっと甘やかすことになるんだろう。