Tatikawa
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「あ」
「どうした?太刀川」
「ちょっと待ってろ」
久しぶりに来た大学の授業後、あとは本部でまた模擬戦でもやろうかと堤と向かっていた最中だった。
大学を出る前に見つけた姿に太刀川は足をそちらへと向けた。
残された堤はというと、やれやれとため息をつき近くのベンチへと向かう。
「よぉ、family。久しぶりだな」
「太刀川君…?」
きょとんとした顔は相変わらずだ。
ベンチに座っていた同期の女子に声をかけるとそのまま同じベンチへと腰かける。
遠巻きに女が騒いでるのに太刀川は気づいていたがそんなものお構いなしだ。
隣に座られたfamilyと呼ばれた太刀川の同期生は読んでいた参考書から顔を上げ、首をかしげる。
「珍しいね、太刀川君が大学に来てるのって」
「おいおい、俺が常日頃さぼってるみたいに聞こえるだろ?」
「…違うの?」
「お前のそういうところ俺好きだわ」
ありがとう、と素直に答える彼女を見てほっこりする。
太刀川は入学した時から彼女に惚れている。
それは彼を知っているものからしたら周知のことで。
これほどまでにアピールされているのにわからないのは当の本人だけだろう。
「なあfamily、今日何の日か知ってるか?」
「今日?…大学の日」
「あー、まあそうだな」
うちの大学は先週から授業再開となっている。
というのも選択科目の具合で、ほかの奴らはまだまだ夏休みっといった学生が多いのだが…。
たまたま会うことができたこの機会を逃す手はない。
「今日は何日だ?」
「8月29日でしょう?明日は本の発売日だもの」
「そうだな、familyは本が好きなんだもんなぁ」
「この間諏訪さんから新しい本を借りたの、太刀川君も読む?」
「俺はあんまり本は読まないなぁ」
諏訪さん、なんてことをしてくれたんだと心の中で悪態つくも、今いない人物を気にかけている時間はない。
「なあなあfamily、俺今日誕生日なんだ」
「え?そうなの?おめでとう」
「サンキュー、んでさ」
次の言葉はきっと何も用意していない彼女に対して『どうせだったら食事してよ、それがプレゼントってことで』だ。
「はい」
「え?」
「きっと太刀川君なら何かねだってくるだろうからなにか買っておけって言われたの」
「…なんとなく予想はつくけど誰から?」
「蒼也さん」
うん、なんとなく予想がついていた。彼女がプレゼントを太刀川に差し出した時点で。
風間さんは彼女の幼馴染だ。
たぶん騎士を気取ってるといっても過言ではない。むしろそのほうが都合がいいと考えてる人だったと思う。
一言でいえば過保護なのだ。
たぶん気付いていないのはその過保護がふつうになってしまっている本人だけ。
「あ、じゃあ太刀川君今日蒼也さんと約束があるから」
「あ、うん。そうだね。そうだと思ったよ」
「じゃあね、堤君もまた」
「またね、familyさん」
ぺこりと頭を下げて立ち去っていく姿はまさしく清楚で可憐な少女という雰囲気だった。
「ちくしょう…風間さん、やっぱり先手を打ってたか…」
「ま、風間さんだしな」
あきらめねぇぞ俺は…という太刀川。
なあ太刀川、俺が思うに別に頑張らなくたっていいと思うんだ。
ふつう買っておけと言われたからって太刀川がほしがってたものを買う必要はどこにもなかった俺は思うんだ。
その辺のお菓子でもいいだろうし、風間さんが用意する何かでもよかったと思うんだ。
『堤、太刀川のことをnameに吹き込んでおけ。俺が許す。
そろそろあいつも太刀川に夢を見るなと言いたいんだが、なかなかあの顔を見ると言い出せなくてな』
風間さんがあれだけ焦ってるんだ、きっとfamilyさんも太刀川とおんなじふうに考えてると思うよ。
なんて、目の前で頭を抱える太刀川に言うのはなんだか癪だったので言ってやらない。