Tatikawa
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「う…ん?」
目を覚ますと、隣にいたであろう男の姿はどこにもいなかった。
だが、そっとその場に手を置くとまだ暖かい。
おそらく今起きたばかりなのだろう。
ゆっくりと体を起こしたところで、がちゃりという音を立てながら部屋へと戻ってきた。
「なんだ、起きたか」
「…太刀川」
「ムードねーやつ。まったく、服着るか?俺はそのままでいいけど」
「…」
ベッドの下に散らばっていた下着や服をのっそのっそと集めながら着替える私を横目ににやりと笑う太刀川はそのまま手に持っていた珈琲カップを机へと置く。
「nameちゃーん?起きてる?」
「起きてる」
「朝が弱いってのはほんとだったんだな。
いつもキリってしてるから嘘なのかと思った」
いつもの姿からじゃ考えられねーほどだ、と言いながらベッドへと腰かける。
まだ服もまともにきていないというのに、彼は大きなその手を私の頬へとかけると唇を寄せついばむ。
鳥につつかれたようなそれにまだ頭が働かない。
ぽーっとしてると笑いを隠すことなくぼすんとベッドへと転がる太刀川。
だんだん戻ってきた…。
え…
「え、太刀川?」
「お、やっと戻ってきたな。おはようname」
「おはよう…え?」
ちょっとまって、なんでこんなことになってるの?
さーっと血の気が引いていくとはこのことかと初めてながらに実感した。
私の顔は真っ青になっていることだろう。
そんな私を横目にくつくつと笑うこの男、太刀川慶。
「まず整理しましょう」
「おう、いいぞ」
「昨日は防衛任務だった」
「そうだな」
「合同任務で、私が太刀川隊に合流した」
「あってるあってる」
「それで…そう、夕飯を食べに行ったのよ」
「ああ、居酒屋に行った」
「…お酒のんだ」
「飲んでたなー、これでもかっていうくらいに飲んでた」
かわいかったぞーname、という太刀川はそのままぐしゃぐしゃと私の頭を乱暴になでた。
いやいやいやなにがあった、飲んだところまではしっかり覚えてる。
だがしかしだ、それからどうした…それから…それから…。
「っ!!!!!!!!!!!!!」
「あ、思い出したか?」
「何も知らない、なにも思い出していない」
「いや、その感じは思い出してるだろ」
思い出した、はっきりと。
思い出さないほうがどれだけよかったか…。
あの夜、太刀川と二人で居酒屋に行って
『やっぱname強いな』
『それはお酒の話?攻撃手の話?』
『いや、お前酒は弱いだろ』
さっきから同じカシスオレンジばかり口に運んでいたが、すでに酔いが回っているのだろう。
顔が赤くなってきているのが自分でもわかっていた。
しばらくなんとなしに話をしていたら、ふいに太刀川が手をのばしてきた。
太刀川の手は私の頬をなぞっていき、それが冷たくてそれにすがるように顔を動かす。
『…やっぱ猫だな、猫』
『?』
『俺お前が好きなんだけど、知ってたか?』
「あー」
「思い出してくれてなによりだ、そこでだ」
あんなこと言ってくれたんだ、責任取ってくれよ?
「う…」
『あたしが甘えるのはあんただけってしってた?』
穴があったら入りたいとはこのことだった。
でも、実際このごつごつした男らしい手にすがるのは悪くないと思っている自分もいた。