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始まりとその先







「あの時の俺の話、覚えてるか?」

ジェボムが言った。


「ジミンっていう腕利きのスパイに目をつけられた時点で、俺もお前もヨンジェも殺される運命だったんだ。
ヨンジェを守れなかったのが…ものすごく辛かった。

来世では幸せにするって約束したのに…

前世は忘れるわヨンジェは泣かせるわ…最低だな俺」


ユギョムはやさしくほほえんでいた。

「僕、ずっとジェボマが浮気したと思ってたんだ…そのうえヨンジェのことも見殺しにして、最悪なやつだって思ってた。

けど、よかった。ジェボムはずっとヨンジェのこと好きだったんだね」

ジェボムが静かに頷くと、今度は声を出してユギョムが笑った。

「あはは、僕ほんとに勘違いしてた!
…じゃあ、今度は絶対幸せにしなきゃだね」

「あぁ、そのつもりだったんだが…
なんであそこにジミンが…」



ピピピピ…


ジェボムの携帯に電話がかかってきた。


「ちっ…こっちは緊急事態なのに…」


耳に携帯を当てると、マーク先生の声が聞こえてきた。


「ジェボム先生!!俺のクラスに転校生が…!ジミンが転校してきました!」


ユギョムとジェボムが顔を見合わせる。


「覚えてないんですか?!前世で、あなたを撃ったジミンですよ!このままじゃ…」


「えっと、なんでそれをマーク先生が知って…?」


マークの顔を前世で見たことがないジェボムは戸惑いを隠せなかった。


ユギョムが、ふと思い出す。



マーク?…まさか!



隣であっ!と大きな声を出す。


「まさか…マークってあの…ジミンの婚約者の…?」


ユギョムはジェボムに貸して!と言うと、携帯を奪った。


「マークさん!今ヨンジェの家だから!早く来て!」













ヨンジェの家に到着したマークはぽつぽつと話し始めた。

「実は…子供の頃から変な記憶があって。
いいお医者さんに頼んで、辛い記憶を消してもらったんだよ。
だから、ずっと働いてても、ジェボムにも気づかなかった。」


「今日俺のクラスにジミンが来た時、15年ぶりくらいに記憶が蘇ったんだ。その時、ジェボムとユギョム、それからジミンのこと。
全てを思い出したんだよ」


ユギョムは歯を食いしばっていた。

「ジミンと今一緒にいるヨンジェは…大丈夫なの…?」


うん、とマークは頷いた。

「教室でのジミンは、ヨンジェのことを覚えてないみたいだった。
ヨンジェもジミンの顔をあまり見たことないしそもそも覚えてないと思う、ただ…」

ジェボムが真剣にその続きに耳を傾ける。


「ジェボムの顔を見たら、きっと全て思い出すと思う。今あいつは前世の影響で、ただ惰性でジェボムを探してる気がする。
でも、もしジェボムに会ったらその時は…」


沈黙が訪れる。

ユギョムが、あっと言ってジェボムに向き直った。


「ヨンジェと2人で撮った写真とかあったりする?
もしもそれをヨンジェがロック画面とかにしてたら…ジミンにバレるのは時間の問題だよ!」


3人は顔を見合わせると、急いで部屋から出た。













「ほんとに、ヨンジェ君のおごりでいいの?」

ジミンが上目遣いで聞いてくる。


「あはは、全然大丈夫だよ!ジミンさんの言う『イケメン』が見つかんなかったわけだし…このくらいは当然だって!はは…」


駅をひと通り見て回ったがお目当ての人が見つからず、結局駅前のハンバーガー屋で過ごしているところだが、

正直他の客からの視線が痛い。


「?どうしたの?」

「あ、いや…ジミンさんが可愛すぎて僕が場違いみたい。そろそろ出ようか?」

「ううん、全然そんなことないよ。
私のわがままに付き合ってくれたんだから、ヨンジェ君優しくてすごい好きだなぁ」


もはや自分を潰してしまうような周りからの視線に、ヨンジェも苦笑いしかできなかった。


「あれ?今ちらっと見えたけど、スマホケースかわいいね」

カワウソのキャラクターが描いてあるケースだ。

「あは、可愛いかな。僕に似てるねって、恋人が買ってくれたんだ」

「え!彼女いるの?そっかー。ヨンジェ君優しいからそりゃいるかぁ、ちょっと残念ー。」


彼女、ではないけどなぁと思いまた苦笑いをする。


「ここのカワウソの目が可愛くてお気に入りなんだよ」

そう言ってスマホを見せると、ロック画面がパッと表示された。


ヨンジェとジェボムが仲良くツーショットを撮った時の写真だ。

「あ…」

ジミンの表情が固くなる。

「え?どうしたのジミンさん?」





ジミンの視線がヨンジェを捉える。


「ジミン…さん?」




「…そっか。あなたがいるからだめなのね」

ジミンの目からは狂気が伝わった。


「安心して。殺したりしないわ。ちょっと人質にとってジェボマを私のものにするだけ、大丈夫…」

「ひ、人質?なんの話?ジミン…さん?」

ジミンが立ち上がり、ヨンジェのもとへ近づく。

ゆっくりと腕を上げ、ヨンジェが状況を把握できない間に手を首まで持っていく。


そして手の力をゆっくりと強める。


「く、くるしいよ…?ジミンさん?」


どくん、と心臓が脈打つ。嫌な予感がする。


「安心して。今度は成功するの。誰にも邪魔されないの。」


「ぐ、ぅあ…っはっ…」










突然、喉の窮屈さから一気に解放された。


ジミンの手をマークが握っていた。


「マーク…?あなたなんでここに…!」

「マーク先生…?」



「やめなよ、こんなこと。もっといい方法があるよ。」


おもむろにマークはスマホを取り出し、誰かに電話をかけた。


「…誰よ」

「俺の記憶を昔消してくれた医者だよ。すごく上手なんだ。頼んでみるよ、ジミンのこと」


すると、暴れて抵抗しようとした。

「嫌!!!私はもうなにも失いたくないんだから!!」


手足をばたつかせるジミンをジェボムとユギョムが押さえた。


「俺が病院まで連れてく。ユギョムとジェボムは、ヨンジェをお願い」

マークはそう言ってジミンを連れて行った。






ヨンジェは先程まで首を押さえて荒く息をしていたが、今はだいぶ落ち着いたようだった。



「ヨンジェ、大丈夫か?」


ジェボムが背中をさすりながらそう声をかける。


「うん大丈夫だよ、先生ありがとう」

大丈夫、と言いながら表情は大丈夫そうではなかった。

ジェボムは眉を八の字にして心配そうな顔をした。


「ヨンジェが前に言ってた『好きなやつ』は、もう諦めたのか?」


突然の話に、ヨンジェが驚く。

「今はジェボム先生だけですよ。『好きな人』は…帰ってこないので」

俯いてそう言った。


すると、ユギョムがくすくすと後ろで笑った。

なにを笑ってるの?とヨンジェは聞いたがユギョム は答えなかった。

「その『好きな人』が…帰ってきたって言ったら?」

ジェボムがヨンジェの前髪をかきあげてわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

「え?それってどういう…」

「もう俺のことは『先生』って呼ぶ必要ないんだよ。
前みたいに『ジェボム』って、な?」



ヨンジェの目の前が涙で霞む。

嬉しさのあまりジェボムに飛びついた。


「うわ、積極的だなㅋㅋㅋ」

そんなからかいも耳に入ってこなかった。

ただ今この状況が信じられなかった。

「ほんと?ほんとに?思い出したの??」


うんうん、とうなずいて見せるとまた抱きついた。


「ずっと…ずっと待ってたんだからぁ!馬鹿ジェボム!」

「馬鹿は言い過ぎだろ?
…待っててくれて、ありがとな。」

自然とお互いの顔が近づいた。



と、突然、ヨンジェがジェボムから離れようとする。

「なんだよ、今いいところだったのに」

「いやいや!前世ならまだしも…まだ僕たちキスしたことないじゃないですか、
なんでこんなに自然としようとしたんですか!」

はいはいうるさい、と言ってヨンジェのおでこに軽くキスをする。

キスをされたヨンジェの顔はたちまち赤くなっていった。

「俺らはずーっとお互いを待ってお互いを愛してたんだから、このくらいいいだろ?」



ヨンジェはうん、と頷くと今度は自分からジェボムの唇にキスをした。

お互い顔を見合わせて幸せそうに笑った。





















教室に秋の風が吹いている。

少し開けた窓から落ち葉が飛んできて、ヨンジェの机の上に乗った。


その落ち葉を拾おうとすると、隣の席の女の子に話しかけられた。


「あれ、その葉っぱ…イチョウ?綺麗ね」


「ジミンさんと比べたら、ただの黄色い葉っぱだよ」


そう言って窓の隙間からイチョウを捨てようとした。


しかし誰かに腕を掴まれて捨てられなかった。

「先生が大事な話をしてるのに無駄話か?ヨンジェ、ジミン」


しゅん、と2人がうなだれる。


「話してる暇があるなら問3の1、2はお前らが解けよー」

はーい…と気は乗らないが2人が黒板に向かった。


ジミンが書き終わると、席に戻っていく。

ジェボムの授業は、生徒がいつも騒がしい。

生徒たちにラフな環境で勉強させたい、というジェボムの思いがあるからだ。




ヨンジェが黒板の前に立っているも、その手は止まっている。どうやら問題が難しく、解けないらしい。


ヨンジェがちら、とジェボムの様子を見る。

ジェボムが近づいて、ヨンジェの耳元に小声で話しかける。

「わかんない?俺が教えてあげようか?」

ぶるっとヨンジェの身体が震えたのがわかる。

愛しいな、なんてつくづく思う。


教卓によって丁度よく隠れた、生徒たちの死角でヨンジェの手を触る。


「セクハラです、」

と小さな声でヨンジェが言う。


「放課後は来る?俺んとこ」

ヨンジェの掌を撫でる手を止めて問いかけた。


「行かないわけ、ないじゃないですか」


恥ずかしそうにヨンジェが笑った。
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