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始まりとその先








「おじゃまします…ってえ?この写真なに?ヨンジェ!!」

机に置いたツーショットの写真を見て、友達のベンベンがなにやら騒いでいる。


「ふふ、その人イケメンでしょ?僕と同じ歳の、ジェボムって言うんだ。実は付き合っててさ…。
これはオーストラリアに行った時の写真で、こっちは…」


「そうじゃなくて!知らないの??」

「えっ…なにが?」


ベンベンはジェボムを知っているようだった。


「イムグループの一人息子だよ!お金持ちなんてレベルじゃないすごい人だよ!」


イムグループって…。


僕は家全体を見渡した。

イムグループは、この世界のほとんどの商品がそれらの製品でできているといっても過言ではない、超超超大手の財閥だ。


「ほんとにいるんだ…そんなお金持ち」

「だから!ヨンジェの話が本当だとしたら、イム家の大大金持ちと付き合ってるってことだよ?

やばいよ…。ヨンジェのどこにそんな魅力が…?」



正直言って、僕とジェボムの出会いは、簡単に言うと『ナンパ』だった。



職を失って、街の中をうろうろ歩いているところに、急にイケメンに腕を掴まれて。

ちょっとご飯行く?って言われたけどお金を持ってなくて。

職をなくしたことを話したら、どこからか大金を持ってきて2人で住もうってなったんだっけ。


そっか。御曹司だからあんなに金を持ってたんだ。


かれこれ2ヶ月付き合ってるけど、まだまだ知らないことがたくさんあるなぁ


「いやいや、彼氏の仕事くらい普通聞くでしょ。なにぼーっと2ヶ月過ごしてんの」

ベンベンが僕の話に素早くツッコミを入れた。

「だって、仕事に行く様子ないんだもん。あー、でもイムグループのおぼっちゃまなら確かに働かなくてもお金は入るか…」

そんなことを呟く僕に、ベンベンはため息をこぼした。








それから、ジェボムが友達を紹介してくれた。

ユギョムって人で、悪い人ではなさそうだった。

すっごくフレンドリーだし、恥ずかしがり屋なところがあって、

なにより僕たちを一生懸命に応援してくれたんだ。




「大変なんだ、ヨンジェ。親父が病気になっちまった」

けれど平穏な日常を、ジェボムのその一言が壊した。


「薬を飲めば治るんじゃないの?」

「そういう問題じゃないんだ。ここぞと色んな人が俺と親父の命を狙ってくる。
みんな金に盲目で、なにするかわからない連中ばかりなんだよ」


半分ほどジェボムの言っていることがわかった気がした。


「それでな、ヨンジェ。俺の恋人のお前も、もしかしたら誰かに何かされるかもしれない。

急いで護衛のやつをつけるから、あんまり外に出るなよ」


護衛とかなんとか、現実離れしていてよくわからなかったけど、
本当に家にガタイのいい男の人が来た時には、あぁほんとの話なんだと思った。



ジェボムには、若い女の人の護衛がついたらしい。

名前も顔も、見たことがないし覚えてないけど。


その女の人は確かユギョムの知り合いで、すごく腕の効く護衛らしくて、僕は安心した。



けれどいつからか段々と、ジェボムは家に帰ってこなくなった。

親父さんの病気が悪化してるのかな、とはじめは思った。


けど、電話すらしない日もあって、だんだん僕もつらくなった。


1週間ぶりに電話して繋がったときは、泣くほど嬉しかったし、確か本当に泣いた。


けど、ジェボムからはこう言われた。


「俺たちもう、別れよう。
俺の家が少し問題に巻き込まれてるんだ。ごめんな。
電話もこれきりで終わりだ。じゃあな」


せめて嫌いだとか、言って欲しかった。

いや、嫌いなんて言われても、納得できなかったと思う。



僕は僕が思っていた以上にジェボムが大好きだった。愛してた。


ジェボムがいなくなってからは、ご飯をあまり食べなかった気がする。


見かねたユギョムが僕(といなくなったジェボム)の家に来て、そして住むことになった。


ユギョムも、ジェボムと面会は断られたらしくて、2人で悲しみを分かち合っていた。










何ヶ月か後、急に電話が来た。



「会いたい。俺の会社の中庭、わかるだろ?
あそこに来てくれないか。」


ずっとずっと待ちわびていた声だった。


隣にいたユギョムと抱き合って泣いて喜んだ。


るんるん気分でイムグループの大きなビルの中に足を踏み入れた。


ドアにはカメラがついていて、僕だと認識するとドアが自動で開いた。

ユギョムの顔も認識され、ユギョムもビルに入った。



中庭は、1つのビルの中にあるとは思えないほど広かった。


芝生がふさふさしていて、鮮やかな黄緑色だった。


僕は綺麗な鳥がいるのを見た。僕を見るなり激しく羽をばたつかせ飛び立った。

そんな景色に、見惚れていた。






バシュッ


鈍い音がした。









僕の意識は、そこで途切れた。





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