始まりとその先
僕には前世の記憶がある。
大親友のジェボムってやつと毎日笑いながら過ごしていた。
ジェボムにある日大切な人ができた。
僕は心から応援した。
その人とも仲良くなって
順調に2人は
なのに
『来世では絶対幸せにするから』
今あいつを幸せにしてくれなきゃ意味がないじゃないか。
僕は何度もそう叫んだ
そして結局ほら、来世になってもヨンジェを傷つけてるじゃないか。
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「君がヨンジェなの?」
目の前の男は少し恥ずかしげに頷いた。
「僕はこいつの友達のユギョム。よろしくね!
わぁ、ほんとに可愛い…」
横からおい、取るんじゃねーぞ?と小突かれる。
ヨンジェはふふっと笑い、取られるほど僕は簡単じゃないですよ?と言いジェボムの腕にしがみついた。
「うわーㅋㅋㅋ見せつけてくるㅋㅋㅋ
僕も応援するから、お幸せにね!」
幸せの絶頂ってこう言うことを言うのか。
ヨンジェって子はすごく真面目な印象で、少しチャラいジェボマといいバランスだ。
突然目の前の景色が崩れる。
あれ?今までの景色は?
今までの幸せは?
気づくと自分は浮かんでいた。
下を見ると、苦しそうに悶えているヨンジェが、
ジェボムを見つめていて、
「ヨンジェ!!!どうしたの??!
ねぇ!しっかりして!!」
ユギョムは慌ててそう声を掛ける。
けれど足は浮いたままだ。
ヨンジェの視線の先にはジェボムがいた。
ジェボムはしっかりと地面の上を歩いていた。
よかった。あいつなら。
あいつならヨンジェを助けられる。
「ねぇジェボマ!…って…」
その隣にいる人、誰なのジェボマ?
「は、っ!」
息切れをしながら目を覚ます。
電気をつけっぱなしで寝ていたらしい。
時計は3時を指していた。
隣の部屋のヨンジェの様子を見に行った。
案の定、ヨンジェも息切れする胸を押さえていた。
「…ヒョンも、昔の夢見たでしょ」
うん、とうなずいたヨンジェの額には汗がにじんでいた。
「…僕が。僕が助けられなかったから、ヒョンも僕も前世の記憶なんか持ってるんだよ。
こんなの無ければ…ヒョンだってあの男にこだわらないのに…」
ドアの前でそう言うユギョムにおいで、と声を掛ける。
ヨンジェのベッドにユギョムが腰掛けると、後ろからぎゅうっと抱きしめた。
「僕は、好きでジェボム先生に近づいてるんだから、大丈夫。
大丈夫だよユギョマ。」
もう涙は流さなかった。
ただ、声にならない感情をお互い共有していた。
「チェヨンジェ…あれからもう1ヶ月だぞ…まだ根に持ってんのか…」
ヨンジェが放課後ジェボムと過ごさなくなって1ヶ月が経った。
「確かに悪かったけど…。あいつに好意がある俺に好きな人があーだこーだ言うあいつもあいつだろ」
そう言い聞かせて気にしないように廊下を歩いた。
職員室に足を踏み入れて、仕事を始めた。
正直、職員室よりも数学室の方が居心地がいい。
どこかヨンジェがいるような気がするからだ。
「ちょっとジェボム先生、明日は文化祭だってのに今日も仕事ですかー?」
教頭にそう声をかけられる。
「えぇ。明日一日中仕事ができないからこそ今日やっておこうと」
まるっきり嘘だ。ヨンジェのことが頭から離れないからなにかしたいだけだ。
「ほんとに熱心だなぁ、ジェボム先生は。
明日は他校の女の子もたくさん来るでしょう。
毎年のようにイケメンなジェボム先生は声掛けられますからね、今年は何人告白してきますかねー」
ほくほくと言う教頭に呆れる。
こっちは物心ついたときから男がタイプだよ!
「はは。いやー、困りますねー」
そう適当に相槌を打って、また手を動かしてパソコンを打ち込んだ。
次の日。俺はかなり早くから学校に出勤した。
もしかしたら。本当にわずかな願いだが、
ヨンジェから一緒に回ろう、という誘いがあるかもと期待したからだ。
心臓をばくばくさせながら、数学室で待っていたが、まぁ予想通りといえば予想通り、ヨンジェが来ることはなかった。
そうこうしているうちに文化祭が始まり、他校の生徒もたくさん学校に入ってきた。
そろそろ数学室から出て学校を見回ろうか、と思っていたそのときだった。
数学室のドアがノックされた。
「先生…あの、今いいですか」
入ってきたのは、待ちわびたヨンジェだった。
「ヨンジェ…その、悪かった」
「僕の方こそ、すみませんでした。あの後、ここにも一回も来なくて」
よかった。また平和な日が戻ってきた。
「それでなんですけど、今日一緒に文化祭回りませんか…?」
心の中のガッツポーズを表情に出さずに、「別にいいけど?」なんて言ってみた。
「よかった!…それで、紹介したい人がいるんです」
…は?紹介したい人?
おいおいどういうことだ、と思っているとヨンジェの後ろから1人の男が出てきた。
「はじめまして。あなたがジェボム先生ですね!いつもヨンジェヒョンから話聞いてますよー」
「…ゆぎょ、む」
え?と目の前の男が聞き返した。
なんて言った?俺。ユギョム…?誰だよ。
初めて会うし、制服も俺の勤めたことのない学校のとこじゃないか。今なんで俺…
「…僕、ヨンジェヒョンの弟で、ユギョムっていいます。僕も一緒にまわっていいですか?」
混乱している頭では、返事すらも考えることができなかった。